[大田side]
「二宮なら昨日限りでここ辞めたぞ」
「マスター……」
腰に巻き付けれたエプロンで濡れた手を拭いながら、マスターが厨房から現れた。
1週間、顔を合わせていないだけなのだが、重労働で余裕がなかったため、随分懐かしく感じられ、安心感が生まれた。
「辞めたって…、なんで…」
ニノに早く報告したくて来たのに…。
既に辞めたと聞いて、急な現実に目眩がしそうだった。
周りを改めて見回したところで、ニノがいるわけでもない。
「………たんだよ」
「…へ??」
「ううん、なんでもない」
相川さんがボソッと呟いたが、よく聞き取れなかった。
珍しく苦笑いで返され、四角い一口サイズのサンドイッチを口に含む。
一瞬、相川さんが別人のように見えたのは気のせいだったかな…?
「事情は分かんないけど…、ここでバイト始めた時もすぐ辞めるつもりだったらしいんだ」
マスターが腕を組み、口を開く。
「すぐ…?
ってことは、最初からある程度のお金を稼ぐためにカフェのバイトを…?」
「そうみたいだな」
「………」
ニノはなんでバイトをしていたんだろう…。
ニノは若く見えるけど俺と近い歳だろうし、辞めたということはまともな職に就く気がないととれる。
フリーター、所謂無職でどうやって生活をしているのか…、気になって仕方がない。
「ニノは今どこにいるんですか??」
「さぁな。何も言わなかったし…、住んでるとこも知んない」
「………………」
「それにあいつ、お前のライブが終わったら東京からしばらく離れるらしいんだよ」
「え…」
「生まれは東京だって聞いたけど、ここ何年かで日本全国を転々としてるって」
東京から離れる…?
日本全国をって…、もしかしてニノは金持ちのお坊っちゃまなのだろうか…。
旅をして、言い方は悪いけど遊んでお気楽に暮らしてるとか…。
「思えばあっという間だよなぁ。
さっと現れて、さっと去っていく。
まるで嵐の後だよ」
「そうですね…」
「まぁ、ライブには来るみたいだし、それまでその辺でプラーッとしてんだろ」
「そうだよ!!
偶然バッタリ会う可能性もあるしね!」
「うん」
彼に会いたかったけれど、また1週間後になるのか…。
会っても、すぐに東京から離れてしまう。
ニノに事情はあると分かっていても、寂しさを感じた。
とりあえずライブには来てくれることにホッと胸を撫で下ろした。
次に会う時は、必ず笑顔で、ありがとう、って言ってお別れするんだ。
一気に体の力が抜け、桜さんの隣にストン、と腰を下ろす。
「あぁ~、安心したら腹減ったぁ」
「ふふっ、なんか頼んじゃいなよ」
「……………」
マスターが何か言いたげな目で俺を見る。
あぁ、と理解すると、ジーパンのポケットから財布を取り出して、ニマッと笑顔を向けた。
「先日はどうも。
今日はちゃんと持ってきてますよ。
カレーお願いします」
「…了解」
マスターはふっと笑うと厨房の奥へと消えていった。
「えっ!?
なになに、どういうこと!?先日って!?」
「ん~?
なんでもなぁ~い♪」
相川さんの言葉を軽く受け流し、上機嫌でテーブルに突っ伏した。
つづく
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