文科省の学術政策研究所の調査によると、2017~19年に発表された論文で、他の論文に引用された回数が上位10%に入る影響力の大きな論文の数で、日本は10位に順位を落とし、中国は米国を抜いて1位に立ったとのこと。(以下の資料を参考)

 文部科学省科学技術・学術政策研究所 「科学技術指標2021」

同研究所のサイトからダウンロードできる。

 

論文数順位

1997-1999年

論文数

2007-2009年

論文数

2017-2019年

論文数

米国

米国

米国

日本

中国

中国

ドイツ

日本

ドイツ

英国

ドイツ

日本

フランス

英国

英国

カナダ

フランス

インド

イタリア

イタリア

韓国

ロシア

カナダ

イタリア

中国

インド

フランス

10

スペイン

10

韓国

10

カナダ

 

Top10%論文数順位

1997-1999年

トップ10%論文数

2007-2009年

トップ10%論文数

2017-2019年

トップ10%論文数

米国

米国

中国

英国

中国

米国

ドイツ

英国

英国

日本

ドイツ

ドイツ

フランス

日本

イタリア

カナダ

フランス

豪州

イタリア

カナダ

カナダ

オランダ

イタリア

フランス

豪州

豪州

インド

10

スペイン

10

スペイン

10

日本

 

 日本のTop10%論文数は、貧困でカースト制度が残る途上国としてみているだろうインドの下である。上位の顔触れを見れば、日本だけがこの10年でかなり凋落している。

 研究現場にいる人は、これを聞いても別に驚かないだろう。日本の科学技術の存在感は、ここ20年低下する一方であったからで、上がり目を感じられることなどなかった。

 

 理由の大きいところは以下の通りである。(私の考えでもあるが、研究者の共通認識とも言える)

・予算額が伸びていない

・基礎研究費が少ない

・研究人材が少ない(特に博士号取得者)

 まず、予算面で見ると日本の研究費はそれほど伸びていない。特に論文に重要となるのは、大学や公的研究機関における研究資金である。大学の研究資金を見てみると、実質基準で日本の2019年の2000年比は1.3である。一方米国は1.8、中国は12.2である。韓国は3.3である。(資料のp.50)

 

 人件費が含まれていないOECD統計では、2000年比は1.0である(外国と比較する場合はこちらを使う)。主要国で唯一伸びていない。研究費額は、2019年2.1兆円。米国は8.2兆円、中国は4.4兆円、ドイツは2.6兆円である。

 

 日本の研究費が伸びないのは、単純に国にお金がないためである。高度成長期のような時代だったら研究開発費にどんどんお金をつぎ込める。お金がないので、選択と集中などと言っているだけである。

 購買力平価GDPを見てみると、日本はこの20年間で1.5倍になっている。一方、中国は6.6倍、米国は2.0倍である。絶対値で見ると、2020年に中国は日本の4倍以上になっている。日本は停滞国で、先進国から見たら衰退国になる。

 

表 購買力平価GDP(10億US$)

購買力平価は、各国の物価水準の差を修正し、実質的な比較ができる。

2000年

2010年

2020年

米国

10250 (1)

14990 (1)

20930 (2)

中国

3660 (2)

12290 (2)

24140 (1)

日本

3480 (3)

4530 (4)

5310 (4)

ドイツ

2400 (4)

3220 (5)

4500 (5)

インド

2030 (5)

5160 (3)

8910 (3)

世界経済のネタ帳 - 世界の経済・統計 情報サイト (ecodb.net)

 

 次の理由は、基礎研究費が少ないことである。日本の研究費の分配は応用研究の割合が大きい。これは今に始まったことではなく、昔からの傾向である。貧乏人の発想は、金が儲かりそうな研究開発に投資をして、無駄なく取り返そうとする。目先の研究しか関心がないのである。

 

 論文の総数では、日本は4位で、10%論文の数は10位である。これは、引用されるような論文の割合が少ないということである。どのような論文が引用されるかというと、その分野を切り開いた人やいち早く成果を出した人の論文である。後追い研究や応用研究は引用されにくい。

 

 以下の表に、10%論文の割合を国別に示した。日本の場合、Top10に入る論文割合は5.8%で、10年前が6.8%だったのである。中国は11.4%、10年前が8.2%で大きく伸びている。 

 日本は、論文数が引用されるような質(または先駆性)の高い論文割合も減っていることである。

 

2017-2019年

論文数

2017-2019年

トップ10論文数

2017-2019年

トップ10割合%

中国

353174 (1)

40219 (1)

11.4

米国

285717 (2)

37124 (2)

13.0

ドイツ

68091 (3)

7248 (4)

10.9

日本

65742 (4)

3787 (10)

5.8

英国

63575 (5)

8687 (3)

13.7

 

 大学の研究室では、科研費がないと研究ができないと言われるように、基礎研究にかけられる予算はかなり減っているのではないかと思う。最近は、企業との連携で金を稼ぐことも推奨されている。企業との共同研究が論文発表されることはまれである。

 

 総括すれば、日本の科学技術の凋落は、研究費が伸びなくなった、そして、選択と集中と称して基礎研究費を減らしたことが要因である。