「ちゃんと話している人の目を見て!」
子供時代にこの言葉を言われた記憶が、大抵の人はあると思う。
子育てしている人、子供の教育に携わっている人なら、子どもに言ったことがある人も多いだろう。
でも、自閉症と診断された子ども、またその可能性があると言われた子どもの中には、他人の目を見ることがとても難しい人がかなり高い割合でいる。
彼らに「ちゃんと目を見て!」をやった場合、たいていの子は言えば言うほど頑なにこちらを見ない。顔を近づければ背ける。背けられないようにこちらが子供の顔を両手で挟み固定するという暴挙に出ても、視線を外し、意地でも目を合わせないようにする。
たまに、頑張ってこちらを見ようと努力する子もいる。ぎこちないけれど、こちらを見ているように見える。目も、合っている、ような気がする。
が、その子が目を見てくれたからといって、こちらの話が聞けているか、と言うとそうでもない。むしろ、目を合わせるという著しく困難な課題にエネルギーを使いはたし、話を聞く力など残っていない場合が多い。
本末転倒。
話を聞けるようにすることが目的なら、目を見させる必要はない。たとえ背を向けていても、歩き回っていても、むしろその方がずっと相手の話が聞けるし理解できる子供を私はたくさん知っている。
それでも、自閉症の子供たちが人と目を合わせられるようになることは、療育の中のとても重要な課題だと私は思っている。
自閉症の子供の療育で、核となるのが社会性を伸ばして行くこと。ここで言う社会性とは、外の世界に心を開き、人とコミュニケーションをしていける力だ。
人は人を通じて多くのことを学ぶ。社会性は認知や自活スキルなど、ほかの多くの課題を克服する基盤となる。
人が人と繋がるために、アイコンタクトをはじめとする非言語コミュニケーション力は、時として言葉以上に有効な手段となる。
では、どのような方法でアイコンタクトを促したら良いのだろうか。今まで私が試した中で、効果的だった方法をお話ししようと思う。
①自分から子どもの視界に入る。
子供に目を見させるのではなく、子供の視線が行く場所に、自分の顔を持って行く。
机を挟み対面でセッションをすると、当然大人は子供を見下ろす形になる。信頼関係ができる前の子どもはたいてい伏せ目がちなので、その体制で子供にアイコンタクトを要求することは、とてもハードルが高い。
なので、社会性を育てるためのセッションでは、私は椅子に座らないし、身長の低い幼児さんなどが相手の時は、寝転がった状態で課題に取り組んだりもする。その方が、子供は圧倒的に目を合わせやすい。
部屋の中を常に歩き回っているような子どもの場合は、その子と対面ですれ違える動線を繰り返し選びながら一緒に歩き回る。動きながらだと、静止して向き合っている時よりも、やはり目が合いやすい。
②距離を取る。
一緒に遊んだり課題をする時に、少し離れた場所で行う。大体1.5メートルから2メートルくらい離れる。
こちらの目を見ない子どもには、他人に興味がないだけでなく、うっかり目を合わせたりしたら、何か嫌なことをされるかもしれないと警戒している子もいる。
そのような場合は、何かあったら逃げられる距離を取るだけで、アイコンタクトの回数が格段に増える。
③鏡を使う
鏡越しだと、目を合わせてくれる子供もいる。子供部屋、セッション部屋に大きな鏡を設置し、子どもが鏡の前に立ったら、自分も少し後ろ、あるいは横並びで鏡の前に立ち、アイコンタクトを試みてみるのも一つの方法だ。
①②③、いずれの場合も、いつ目を見てくれるかとじっと子供を見つめ続けていたら、たぶん上手くいかない。警戒させてしまうからだ。
さり気なく見てないふりをしつつ、子どもがこちらを見たタイミングを逃さずに目を合わせる。最初はなかなか難しいけれど、ゲーム感覚で楽しみながらチャレンジしてほしいと思う。
④目が合ったら、その瞬間に、感謝や喜びを表現する。
「わぁ!目を見てくれてありがとう」
「目が合ったね!うれしい!」
「素敵!なんで綺麗な目なの!」
などなど、言葉はなんでもいい。
できれば大げさに、表情やゼスチャーなどを交えて。
目が合うと喜んでもらえるんだ!と思ってくれたら嬉しいけれど、最初はそこまでは期待できない。ただ、なんだか面白いことが起きた、と感じてくれたらしめたものだ。
ただ、中には大きな声や動きが苦手な子どももいるので、そこは気をつけたい。子どもの反応をよく観察し、その子に合わせた表現の仕方を見つけることが大切だと思う。
次回は、実際にこれらの方法を使って子供にアプローチしたエピソードをいくつかお伝えできたらと思っている。
具体的な方がイメージが湧きやすいし、実践に役立つと思うので。
