アルモ
〜君がいて。(亮視点)〜

今日は力哉の誕生日だ。
もうそんな年か、と思ったり。
生きていたら、と考えたり。

力哉、そっちの世界ってどう?
お前の好きなもんは全部ある?
……

俺と遊ばなくて、平気?
俺のこと、心配してない?

俺は力哉に会いたいよ。
あんなに早くいなくなるなら、もっと遊ぶんだった。
あの日、遠出なんかやめるんだった。
こんな考え事はムダだとわかってる。
でも、力哉のいない世界、生きづらすぎるよ。

「やべっ」
色々考えていたら、手を滑らせて、棚に戻すはずのグラスを落としそうになった。声を出した瞬間に、忙しい足音がして、グラスをキャッチする頃、ピタリとやんだ。

「大丈夫かい?亮くん。大きな声を出すから驚いたよ、なにかあったかい?」
大きな両手が、俺の肩にそっと添えられた。なぜか俺よりも慌てた顔をして俺を見てた。

「ちょっとグラスを落としそうになってしまったんです、大丈夫です。なんで店長がそんなに慌ててるんですか?」
「そりゃあ、僕にとってスタッフは家族だもの。大丈夫ならよかったよ」
店長はほころんだ顔をして、すっと俺の肩から手を離す。

「家族ですか…」
グラスをそっと棚に戻しながら、力哉の誕生日を最後に本人と祝った日を思い出していた。

「もう一度聞くよ。何かあったの?」
ゆるんだはずの顔は、今度は心配そうに眉を下げた。

「今日、弟のいない、弟の誕生日を、また迎えました、まぁ、あいつのことだから向こうで元気にやってますよ」
無理に明るくした声色が自分の耳に入るのは気持ち悪かった。

「どうしてるか、わからないって、もう会えないってつらいよね。」
店長は一瞬だけ俯いて、自分の左手あたりを見て、切ない気持ちがどこか拭えない笑顔を見せた。

「でも、生きていくしかないんだよね。
寂しくないのかな、つらくないのかな?向こうも心配してるのかな?考えたところで聞けない。考えたって仕方ない。わかってるんだ。自分が生きていくしかないことも。わかるよ」

俺はなんだか、自分の感情が、店長の言葉によってさらに迫り過ぎて、何も言えなかった。そして、それは俺へ向けられたものでありながら、きっと店長も奥さんを亡くして何度もそう思ったのだろうと、そう感じて、なおさら唇は重くなった。

「わかるよ」

繰り返されたその単語が、ただの共感でないことが、胸の奥まで伝わってきた。

「つらいよね、生きていくって。
でもね、愛した人がいて、愛してくれた人がいることは、ずーっと自分の中で生きる。
生きている自分ができることは、その人が自分を見たとき、笑ってくれる生き方をすることなんじゃないかなぁ。たまに心配かけたり、怒らせたりしちゃうような日もあるけどね。その人が死んでしまっても、その人と築いた愛や絆って、僕は生かしていたいかなぁ。」
店長の薬指についた指輪は、光って見えた。照明の当たり方も、日の差し方も変わらないのに。

「俺も、生かしていたいです。
だから、先生になる夢、諦めてないんです」

力哉、誕生日おめでとう。
力哉が俺を応援してくれてるのは、今も変わらないよ。
生まれてきてくれてありがとう。

「弟さんも、きっと嬉しいね」
店長の笑顔は優しかった。
力哉の大切さと、店長のまっすぐな思いが、
また深く刻まれた。