クミコは比較的シンプルな白いワンピースの上に、淡いブルーのカーディガンを羽織っていた。彼女の着こなしはそのころから、何かしらはっとさせるものがあった。たとえばそれ地味な服であったとしても、ちょっとしたアクセントや工夫、あるいは袖の折り方や襟の立て方ひとつで、彼女はそれをさっと華やかなものに変えてしまうことができた。
それに加えて、クミコは自分の服をとても大事に、愛情をこめて扱っているようだった。僕は久未子に会うたびに、並んで歩きながら、よく彼女の着ている服を感心して眺めたものだった。ブラウスには皺ひとつなく、プリーツはあくまでも折り目正しく、白いものはいつもおろしたてのように真っ白く、靴にはしみひとつ曇りひとつなかった。彼女の着ている服を見ている僕は、箪笥の引き出しの中に、角を揃えて折りたたまれたブラウスやセーター、ビニール袋に包まれてクローゼットの中に吊るされたスカートやワンピースの姿を思い浮かべることができた(そして実際にこのような光景を結婚後に僕はめにすることになる)。
村上春樹『ねじまき鳥クロニクル』
ぼくと蒸発した妻のはじめてのデートシーン。
村上春樹の小説の行き過ぎた表現に辟易する時があります。
ところが所々にある、こんな清潔感と生活感あふれる表現から、作者の品性の高さを感じます。
料理の作り方も何だかとてもオシャレ。だから村上春樹を読んだ後に丁寧な手料理を作りたくなったり、自分の持ち物を整理したくなる。
そんな趣旨のストーリーではないのに不思議だ。