[死ぬ瞬間]

 

去年の年末くらいから、吸引の数が増えている。

 

気管の奥底に固いたんが溜まり続ける。

 

 

 

恐らく長期仰床による無気肺

 

つまり、(機械に例えると) 肺が錆び付いて来ているのを感じる。

 

 

 

 

 

 

 

たんが詰まらないように、(窒息しないように) ヘルパーさんに吸引をお願いするのだが、

 

呼吸器を付けていて声が出ないので、ボタンで音を鳴らして知らせる。

 

 

 

夜寝る時、ヘルパーさんがボタンを置き忘れて、部屋を真っ暗にして向こうへ行ってしまった時

 

 

 

文字通り、全身総毛立つ恐怖に包まれた。

 

血の気がスーっと引くのがわかった。

 

目が血走った。

 

心臓が胸からはみ出す程、拡大したように感じ、

 

信じられないくらい、マグマのような心臓の拍動が収まらない。

 

 

 

 

 

 

 

やばいやばい!!! 

 

朝までこのままだと死ぬかもしれない

 

 

 

いや。落ち着け。

 

とりあえず、今は息ができている! 

 

ヘルパーさんが戻ってきたら、身体の動かせるところを思い切り動かせば気付いてくれるかもしれない。

 

 

 

と思ったら、心臓が胸の中に収まり、拍動もマシになった。

 

 

 

 

 

でも気付いてくれなかったら?

 

 

 

 

 

と思った瞬間、再びあの恐怖に包まれた。

 

もう心臓が爆発しそうだ。

 

 

幸いヘルパーさんが気付いてくれて、今日は生き延びることができた。

 

それが良かったかどうかわからないが、少なくとも、恐怖と絶望の極限のまま、目をカッ開いて死ぬのは避けられた。

 

 

 

 

 

多分事件事故に巻き込まれた人、溺死した人、土砂に巻き込まれた人.... 

 

死ぬ直前は、みんな同じ状態になったのではないか。

 

 

 

時々、たんで完全に気道が閉塞することがある。

 

自力でフンッといきめば、自動吸引器がズーっとたんを引いてくれて楽になる。

 

 

 

でも、自力でいきめなくなったら?

 

いきめないほどのたんの量だったら?

 

 

 

 

 

特に経験の浅いヘルパーさんがゆーっくりカテーテルを消毒し、ゆーっくり水を通し、まるで茶道のおて前のようだったり、

 

 

 

吸引が浅すぎて、全然たんに届いてなかったり

 

 

 

その間息ができない。

 

 

 

 

 

近々ヒューマンエラーで死ぬ気がする。

 

そうでなくても窒息死だろう。

今日か明日か… 

あのヘルパーさんの時か、このヘルパーさんの時か… 

 

 

願わくは、目をカッ開いて死なないことだが、私にその他の選択肢はあるのだろうか。

 

来年発症10周年。キリがいい年が来る。