何やら突然恋愛小説が読みたくなりました。友達が恋愛真っ只中で、厳密に言えば、交際前の駆け引き期間という面倒な、当人にとっては恋愛物質が分泌されて、片想いの女の子からの
LINEにワクワクしたり、ドキドキしたり、連絡が来なかった時にはヤキモキしたり、一喜一憂するそんな期間だろうと思いますが、私にとっては、しょっちゅう恋愛相談を受けていましたので、「そんなもん俺に言われたってわからんわい。」という思いが募るばかりでした。だけれども、他人の恋愛相談をしていると、どうしても自分の過去の恋愛を引っ張り出して参考資料として思い浮かべる時もあります。どの引き出しにしまったのかな?と悩むほど恋愛はしてこなかった私ですが、確かに引き出しに閉まったままの恋愛が2、3あります。埃のかぶっているものもあれば、かぶっていないものもある。思わず、Spotifyでラブソングを再生させました。いくつか懐かしい曲が流れてきて、私までちょっと恋にのぼせてしまいました。本作のテーマソングであるスピッツさんの『初恋クレイジー』も流れました。
過去に戻れないのであれば、せめて擬似体験をしたい。そこで手に取ったのが『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』でした。以前から「ジャルジャル」さんのYouTubeをよく観ていました。彼らのコントが好きです。本作は福徳さんが書かれたということ、映像化され現在上映中とのこと、そして、河合優実さんが気になっていたこと。映画を観にいこうかと思ったのですが、まず、頭の中で文章を映像化したい、自分の過去もそこに垣間見ることが出来たらなと思い購入しました。
本は映画版のブックカバーがかけられており、良いタイミングで買うことが出来ました。
冴えない大学生活。グループで群れるのを嫌う。まさに主人公・小西と当時の私は重なります。大学生時代、私も1人だけ友達と呼べる奴がいました。小西には山根がいて、私にはFがいました。
小西の心情が痛いほどわかる。小西の思考が私と同じでした。
小西は日傘を人を避ける楯として使う。私は韓国のトートバッグを使う。それは、ちょうど小西の好きな人・桜田さんがお団子ヘアにしている理由に近いものでした。私の場合はおおよそ次のようなことを周りは思うだろうと想像していました。「彼はいつも1人でいるけれど、あのトートバッグは韓国の有名なブランドだ。だから、きっと友達はいるし、K-POP仲間がいるに違いない。」実際は、友達はFだけ。K-POP仲間はいない。そこまでK-POPに詳しいわけではない。寧ろ、韓国ドラマの方が詳しい。今のではなくて、ちょっと昔のもの。周りはもっぱらK-POPだったのです。
大学の授業の風景も本作を読みながら目の前に蘇りました。授業態度を気にしない教授。やけに小テストをする教授。パワポのコピーがなくひたすら板書をしなければならない授業。友達がいなかった私は小西と同じ情報弱者でした。兎に角、真面目に板書して復習して乗り切るしかありませんでした。
色々と懐かしい大学生活が思い出されます。小西を思うと親近感が湧いてきます。
小西の恋愛模様を一心に追いかけました。自分とは違うものになっていく小西の恋愛に羨ましく思うのと同時に自分が情けなくもなり、後悔の波が押し寄せてきました。
本作のテーマは「空」にあると思います。
「空」は毎日変わる。一刻一刻変わりゆく。恋愛も恋愛をしていない時も人間関係も、思った以上に早く劇的に変わっていきます。自分が当たり前だと思っていることは、相手には当たり前ではなく、また、自分も相手にも思いもよらぬことが第三者によって起こされることもあります。それは恋愛においてよく発生するから恋愛小説には印象的な起承転結が付きものなんだと思います。
小西の祖母は、「空」に拘ります。祖母は、小西にとって、人生の指針であり灯台のような人です。
空とやはり対になるのは海。空と海は水を通して繋がっています。その日の空を好きなれるというのは、海という、いつまでも変わらないものがあるからだと思います。母なる海、ずっとあるものの安心感、言い換えれば寄り添える場所が心にあれば、日に日に変わる空だって好きになれるのかもしれません。本作では「海」に関するセリフや地の文はありませんでしたが、私はそう考えました。
安心できる居場所探しを小西はずっとしています。
本作は、恋愛をいっときの性の交わりや衝動ではなくて、人生という過去から現在そして未来へと続く時間の中における重力、即ち、
「時間の歪み」のようなものと捉えているように思います。小西と桜田は、お互いにお互いの過去・現在・未来を旅する。
不確実な事が多い現在と未来。恋愛においては、その不確実性の深淵さからなかなか勇気を振り絞ることが出来ません。私がそうでした。今思えばとても後悔しています。
あの時、あのように言えばよかった。「あ、あのー、この後空いてる?」とか言えばよかった。小西のように言い訳を作って一言何か言えばよかった。
好きという気持ちは、複雑ではない。ただ、好きな子の前に行くと変に意識をして、複雑になってしまう。ああでもないこうでもない。今はベストなタイミングではない、今日の髪型ではダメだ。あ、あの友達がいる。ダメだ。みんなにバレる。些細なことを気にして体裁ばかり気にして他人ばかりを気にして心臓がバクバクして喉が乾いてコンビニで飲み物を買ってまた来週でいいやって。そんなことをしていたら、新型コロナウイルス拡大で卒業式が中止になって、これが彼女と会うのは最後なんだという準備もないままに終わってしまった。
彼女の顔を忘れていく。声も忘れていく。時間という残酷な忘却装置のせいで、忘れていってしまう。だけれども、忘却によって次に歩み出せることもまた事実。
本作によって、忘れかけていた恋愛の気持ちと過去の中に閉まってあった思い出に色が付きました。
小西と桜田さんと山根。もう1人大切な登場人物がいます。それはさっちゃんです。ネタバレになるのでこれ以上は言えませんが、相手のことを好きになる。ということはどういう事なのか考えさせられます。なぜ「好き」という2文字を伝えることが難しいのか、その理由に触れること出来るのがさっちゃんです。簡単に言えば思いやりの気持ちだと思います。
私の友達は恋の真っ只中。後悔のないように伝えることが出来る内に「好き」と伝えてほしいと思います。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』おすすめです。
