錦糸の縁結び3章
    雪子の選択 2

 

 家の事情を抱えている雪子と祐貴。二人は、みなが納得するような形を模索しながら、将来を見据えている。

 
  登場人物

椿 雪子 
 椿家の長女。父が経営する椿モービルの後継者候補。祐貴の幼馴染で恋人
鈴木祐貴
 呉服店『美鈴屋』の後継者。雪子の幼馴染で恋人。学生時代に大失恋している。
はっちゃん
 鈴木家の家政婦で祐貴を幼少期から世話してきた。近年は店番もしている。元美容師なのでヘアーセット、着付けが得意。雪子と祐貴を応援している。
椿モービル
 自動車販売修理が主な事業。雪子の父が創業者。
美鈴屋
 老舗の呉服商。代々、鈴木家の女主人が経営してきた。
黒井倫子
 椿家の家政婦。雪子が留学中に家に入り込んでいた。

     1 雪子の帰国

 バンクーバーから韓国のインチョンを経由して、雪子は郷里の空港に降り立った。
 ターンテーブルから荷物を引きあげて出口に進むと、祐貴が立っていた。お互い満面の笑顔になる。
 2人は幼馴染のうえに恋人同士でもある。紆余曲折あったが、気持ちを確かめ合ったのは、1年前のこの空港で、雪子が出国する直前だった。
 カナダと日本に離れた2人。だが、毎日のようにビデオ通話していたので、心の距離は狭まった。半年前の夏に、祐貴がカナダに渡って、ハネムーンのようなデートもした。
 祐貴に駆け寄りハグする雪子は、カナダの生活習慣のままだ。彼も受け止めて、ギュッと抱きしめる。高身長の身体に華奢な雪子がすっぽりと収まった。
「だたいま!」
「お帰り!」
 双方は頬を寄せる。そこへ――、
「雪子!」
 低い声が掛かった。雪子の父だ。
 家では、その存在がほぼない父が、娘を空港まで迎えにくるとは思いもしなかった。帰国日は知らせていたけれど……。
「おじさん、ご無沙汰してます」
 背を向けていた祐貴が向き直って挨拶した。家族ぐるみの付き合いなので、お互いによく知っている。
「祐貴君が来てくれたのか」
「はい」
 男2人の間に妙な空気が流れた。
「お父さん、ありがとう。でも、ヒロと帰るから……」
 雪子が遠慮気味に宣言すると、父はすんなり引き下がった。
「たまたま、仕事で近くを通ったから、寄ってみただけだ……」
 娘との間にも流れた、気まずい雰囲気。それを父自らが払拭した。
「まだ、仕事もあるし、先に行く」
 父は抑揚のない言葉を残し、立ち去ってしまった。

 空港の駐車場にある白いスポーツ車。雪子の荷物をトランクに積んでから、祐貴は運転席に乗り込んだ。
 助手席に座った雪子は、シートベルトを引こうと左手を上げる。すると、祐貴の大きな手で遮られた。そのまま彼の身体が雪子を覆った。
「ずっと待っていた」
 耳元で囁かれた。
「お待たせしました」
 雪子も祐貴の耳に唇を寄せた。

      つづく

 

下矢印このお話は下記作品の続編です。ページに飛ばない場合は、記事一覧→月日→2025/7/6~ からお入りくださいませニコニコ
 

錦糸の縁結び ファースト (雪子と祐貴のもやもや話)2025/7/6~
https://ameblo.jp/ameba508508/entry-12914767529.html

錦糸の縁結び 0章 祐貴の思慕(祐貴の恋の話)2025/9/14~
https://ameblo.jp/ameba508508/entry-12928990122.html

錦糸の縁結び 2章 カナダ編 (雪子留学中の物語)2025/11/7~
https://ameblo.jp/ameba508508/entry-12943529789.html