クリスマスのごちそうといえば、鶏の丸焼きがまず頭に浮かぶ。と

いっても子どもの頃から恒例の料理だったわけではない。

 

 父は子どもが喜びそうな年中行事にきわめて関心が薄かった。あれ

は小学四年生ぐらいのことだったか。クリスマスに母が冷凍とうも

ろこしのバター炒めと鳥の料理(丸焼きではなかったような)とほ

うれんそうの炒めものなど、全体的に洋風な料理を作ってくれて、

めったに使わない白く平たい洋皿と、めったに使わないクリスマス

カラーの紙ナプキンやフォーク、ナイフを食卓に並べ、実際には小

さなクリスマスツリーを置いた。

 

 部屋の明かりを消して豆電球にスイッチを入れる。ピカピカ光る薄

暗い部屋で私はすっかりクリスマスムードに酔いしれた。

 

 と、そこへ予定より早く、父が帰宅した。食卓を一瞥すると、「あ

あ、クリスマスか」とひと言つぶやくや、母に向かい、「おい、箸

を出してくれ。今夜は他になにを食わしてくれるんだ?あと日本酒

の熱燗がいいかな。佐和子、電気をつけなさい」

 

 あっという間に食卓は和風と化した。

 

 クリスマスに鶏の丸焼きを作るようになったのは、そのときのがっ

かりした気持ちの反動かもしれない。大人になって一人暮らしを始

めてからのことである。

 

 私の作る鶏の丸焼きは、しっかりスタッフィングを詰め込む本格的

なものであるぞよ。

 

 まず生の鶏一羽を買ってきて、表面に塩胡椒を振っておく。一方

で、詰め物としては、鶏のレバー、ニンジン、タマネギ、セロリ、

さつまいも、リンゴ、干しぶどう、パンをそれぞれ細かく切って油

で炒める。炒めたスタッフィングを、鶏の首とお尻の穴の上下から

ぐいぐい詰めていく。たっぷり詰め込んだら上下の穴をそれぞれタ

コ糸で縫い付けて、表面にオイルを薄く塗り、オーブンで焼く。

 

 もちろんスタッフィングを入れずに焼くほうがよほど簡単ではある

けれど、レバーや野菜や果物の出汁が染み込んだスタッフィング入

りの丸焼きの肉はまるで味が違う。しっとりする。だからちょっと

面倒と思いつつ、年に一度の行事であると覚悟を決めて取りかかる

のが鶏の丸焼きの醍醐味なのである。

 

 ジュージュー音をたてて香ばしい香りを放つ丸焼きをオーブンから

取り出し、大皿に置き、ナイフを入れる瞬間の楽しいこと。ただ、

そのとき数人ほどお招きしておくと量的にはちょうどいい。老夫婦

二人暮らしの身の上で、一羽分の鶏を食べ切るのはなかなか大変で

ある。さりとて前もって、「鳥を焼くからウチへいらっしゃいな」

 

 と、友人に声をかけるには、まず部屋の掃除から始めなければなら

ない。鶏の丸焼きだけではお迎えする料理として不十分であろうか

ら、他のしゃれた料理の献立も考えなければならない。そんなこと

をぐずぐず考えているうちに、クリスマス当日が迫ってくる。結

局、「ま、二人で食べようか」

 

 その結果、鶏の丸焼きは、翌日も、その翌日も、その翌々日も、も

ちろんその過程においてサラダになったり前菜になったり、スープ

の具になったりはするけれど、いずれにしても台所の片隅でしだい

に形骸化しながら朽ちていく。

 今年はどうしようかしら。