20170120「鹿が林床植生を食べるとき、鹿が語ること」

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久しぶりに絵描き脳が一時的にON。

キャンバスと相談しながら描き加えていくと、そこには鹿が多数生まれてきました。
雨が降り、樹木が萌芽すると、それを鹿が食べます。
なので私たちが鹿を食べましょう。

このモードの時は、違う世界に旅立っています。
そこは会社のない世界です。社会不適合脳。

「生きていくためにちゃんと帰ってきましょう」
20歳まで
まわりに振り回されていることに気づかずに振り回されて生きてきた。
今思うと、あまりにも弱くて、脆かった。

20歳前半で
自由を知り、友を知り、自分の表現をみつけることができた。だから弱くても別に構わなかった。

20歳後半、
大人になるために、全てをかけて社会と関わる道を探したが、辺りは藪だらけでこれ以上藪をかき分けて進むことなんてできなかった。
悪魔に魂を売ってでも、力が欲しかったけども、悪魔はやはりいなく(神もいなく)、小さい頃よりも身体の大きくなったわたしがいるだけだった。
仕方がないので、とりあえず、本でも読むことにした。

30歳前半
食べていくため、自立するため、何もできなかった自分を罰するため、ボロボロになるまで働いた。
身体はよくできたもので、ちゃんとボロボロになった。

35歳
ボロボロになった自分を鏡で見て、急に死ぬのが怖くなって(死ぬほどのものでは当然ないのだけど)、ちゃんと生きようと思った。
ちゃんとした食事を作り、睡眠の時間を確保し、できる限り身体を冷やさないようにし、適度な運動を心がけ、ストレッチで柔軟性を保ち、ブラッシング以外にプラークコントロールを意識し、甥っ子たちを可愛がった。
ふと周りを見渡すと、自分より強いものよりも弱くて脆いものの方が多かった。

基本的には、みんな、弱くて脆いのだと知った。
場所は、中部圏の喫茶店文化にある都市部某所、
パチンコ屋とファーストフードが併設されるその建物は朝から地元の住民で賑わう。

同じテーブルを共有した1人の老女は、
今日も1人、コーヒーを飲み、あてもなくにこやかに会話をしている、ひとりだけで。
声が小さすぎて会話の内容は聞き取れない、同じテーブルにいても。

老女の向かいに座る男性(老人)は、
老女に目を合わせないようにコーヒーを飲み、雑誌を読む。

老女が空の容器を返却する傍ら、男性側のテーブルに肘をついて会話を始める。
男性は姿勢を変えずに雑誌を読んでいる。
一見、男性と会話しているように見えるが、同じテーブルにいても会話の内容は聞き取れない。
その会話にたいして男性からの応答はなかった。

老女は終始、にこやかだった。
彼女の中だけで成立している会話を楽しんでいるようにみえた。
あるいは彼女の人生のどこかの時点で、彼女に迫った孤独が彼女にそうさせたようにもみえた。

同じテーブルにいても聞き取ることができない、その会話の音量の小ささは、
目の前にいる実存のひととの会話を成り立たせないのと同時に、
老女の中にこの社会と平行して存在する「コミュニティ」での会話を成り立たせるためにあるのだろう。


ひとの生を支えるためには、
社会とのつながりも必要であると、改めて思わせる人生の折り返しスタート3日目の土曜の朝。

わたしは、この老女を老女αとした。

このやりとりの傍ら、中2がひとり、アダルト漫画を片手にコーヒーを飲み、立ち去っていった。



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20160903「朝の風景ー老女α」


7ヶ月ぶり
アラフォーになっちゃった

「さんげつきー」

中国河南省淮水に流れる如水のほとり。失踪した同期の官吏を探しにきた袁傪という若者の一行が、叢に飛び込んだ虎を訝しげに思っていたところ。「危ないところであった」とその虎は何度も呟いています。その声を聞くや否や、相手が猛獣であったことも忘れ、無心に叢に近づき、袁傪は虎が飛び込んだ先に語りかけます。

袁傪「その声、我が友、李徴じゃあるまいか」
虎「いえ人違い、もとい虎違いじゃありませんか」
袁傪「いやいや、そんなことはない。声は多少違うかもしれないが、その神経質で一見ユニークな言い回し、君は李徴のはずでしょう」
虎「・・・はてさて、なんのことでしょう。」

人と獣が叢を境界として会話するという超常的な事態であるのにも関わらず、とぼけた虎の回答によって奇妙なやりとりが更に続きます。

袁傪「黙秘ですか、いいでしょう。それでは貴虎(あなた)を李徴ではない、道すがら出会った一頭の虎と仮定した上で、私の話を聞いてもらいましょう。私は監察御史、陳郡の袁傪といいます。私には、切磋琢磨し合ってきた隴西の李徴という風変わりな同期がいたのです。その彼が一年前失踪してしまいました。
李徴は博学才穎、若くして名を虎榜に連ねたのですが、性格は傲慢で且つ尊大。人からの干渉を嫌うがゆえに孤独であり、その一方で人一倍人の目を気にする神経質で自己中心的な性格です。変な知恵があるのものだから、逆に自身の矮小さが気になってしまい、その能力を正しく活かすことができなかった器の小さい男です。」
虎「友人をいくらなんでも・・・」
袁傪「己の才能を信じるがあまり、下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈することを潔しとしなかったようです。いくばくもなく官を退いてしまいました。人と交を絶ち、妻と子を差し置いて、ひたすら詩作に耽るようになったと人伝てに聞きました。それこそ虎になってしまってもしょうがない奴なのだと、私は思います。」

とぼけた回答をした虎に対するイラつきだけでなく、古い友人の自己中心的な過去を振り返ったことで袁傪の感情は自然に高ぶり、口調は自然と早口に、そしてややきつくなっていました。その圧力に押されたためか、やや遠慮がちに虎が口を挟みます。

虎「うん、虎に対する価値観の相違がありますね。虎に対して偏見をお持ちではないでしょうか。
虎の生活、虎ライフというものも悪いものではないと思っています、うさぎとか美味しいし。
うさぎ~美味しい~かのやま~♪ははは
とはいえ、もちろん問題もありますよ。これが本当の虎ブル発生、なんつっ亭www」

もはや虎のとぼけたを意に会することなく、袁傪の話が続きます。

袁傪「ちょうど一年前の今頃、この如水のほとりで彼は急に発狂し失踪してしてしまったそうです。」

如水のほとりで失踪した話に触れた瞬間、叢を取り巻く空気が一変したことを袁傪は感じました。そして、叢に隠れて見えないはずの虎の顔つきが険しくなったと、ありありと感じることができました。
もの言いたげな虎の沈黙があり、静けさと対極ある緊張感がこの叢に広がりました。
袁傪のおもわず息を飲む音がなると、しばらく間を置いて、ゆっくりと虎が語りはじめます。

李徴「袁傪、今から話すことをどうか落ち着いて聞いてほしい。いかにも私は隴西の李徴だ。ちょうど一年前、この道を通った夜を昨日のことのように今でもはっきりと思い出す。」

顔が見えないとはいえ、緊張した面持ちであることは間違いなく、声も幾分懐かしい友の声に近づいた気が、袁傪にはしました。ちょうど一年前、この道を通った夜に何があったのか。

李徴「大雪が降ったせいで、長い列ができていた。どこまでも続く、灯篭の灯りが綺麗だった。(中略)なんでもないようなことが・・幸せだった。
なんでもないような夜のこと~、二度とは戻れない~よ~る~♪ ちょうど一年・・・」

虎の少しハスキーな声で、調子の良い軽やかな歌声が叢越しに広がりました。悪くない歌声でありましたが、不思議と頭痛がしました。ひとしきり、サビを歌い終えると、軽い調子で再び、虎である李徴が話しはじめます。

李徴「なんかね、詩作も煮詰まっていたし、うまくいかない自分の人生に急に頭にきちゃって、宿抜け出して走り回ってたんだよね。そしたら、いつの間にか虎に変わってたんだよ。はじめはどうしようかなと思ったんだけど、早いもので、あれから一年経っちゃうんだね。いやね、案外というか、むしろ悪くないんだよね。でさ、J-ポップと狩りのコラボレーションがさ、新しい詩の扉を開いたっていうか、身体に馴染むっていうか。こんなことなら、はじめから虎に生まれてくればよかったなぁ、なんて思うこともあるよね。そうそう、我が妻子にもよろしく伝えておいてよ。姿形はずいぶん変わっていたけど、元気にやってるから、そっちもがんばってってさ。あぁ、もう夕方じゃん。お腹すいたからちょっとうさぎでも狩ってくるわ。近くに来る用事があったらまた顔出してよ。」

この古い友人には、詩人としてのプライドだけでなく、人としての誇りが微塵もなくなってしまったと袁傪は思った。もちろん個人の視点に立つと、中途半端な才能にしがみつくよりも、また今更何もできない妻子を気にかけるよりも、よっぽど幸せなのだろう。いたたまれない気持ちであることには変わらないが、呆れ果てるのをとおり越して、ある種の感心が、袁傪の胸中に生まれたこともまた事実であった。うさぎを狩りにいった虎においてけぼりを食らった袁傪一行は、余りの無気力さゆえに、夕刻のしばらくの間、叢の前から立ち去ることができなかった。

時に、残月、光冷やかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々は叢の前に立ちすくみ、最早、事の奇異を忘れ、粛然としてこの詩人のある種の薄倖を嘆じるのであった。


20141124自宅
20160207しるびあ

すごい久しぶり
本業が忙しくて

「山月記」が好きゆえの
「美しい答えなどなにものでもないのが、いったいいつになったらわかるのか。わからんのか、まやかし以外のなにものでもないんだぞ。人間の中身が定められているのは、彼を不安にさせるものであって、彼を安心させるものによってではないのだ。(・・・)神は動きを意味しているのであって、説明を意味しているわけではないのだからな。(エリ・ヴィーゼル「死者の歌」より)」