私の背中には翼がある。

この翼は、愛する人の所に飛んでいくための翼。

この翼があればどんなに遠いところにでも飛んでいける。

貴方がいる場所になら飛んでいけるの。


でも、私の翼はある日折れてしまった。

どうにもならなかった。

翼がもげて、痛みに苦しむことしか出来なかった。


・・・でも、体の痛みより心のほうが痛んだ。


だって、この翼が折れてしまったら貴方にどうやって会いに行っていいか

分からなかったから。

翼が無かったら私の空にも戻れない。


私の居場所は・・・もう無いんだ・・・。


だから私は地上に降り立った。

体の痛みは引いたって心の痛みは引かなかった。

居場所が無いなんてまるで生き地獄だったから。

そんなの耐えられない。


貴方に会いたい。


それしか考えられなかった。

居場所をなくした私が求めたのは愛する貴方だけだった。

どうしていいか分からなくなって私は貴方を求めて歩くことにした。

私が今居る場所から貴方までの距離はとても遠い。

でも、いけないことは無いハズなんだ。

だって、地は繋がっているのだから。

私の住んでいた空とは違うから。

翼が無くてもこの足があればいけるんだ。

どれだけ遠くたって歩いてやる。

絶対に貴方に会いに行く。


私は歩く練習から始めた。

私はいままで翼に頼りすぎて歩くことを知らなかったから。

一歩一歩貴方を目指して歩いていく。

何日も歩いた。

私は『ヒト』じゃないから食べ物なんて食べなくても平気。

だから私は自分の命を歩くことにだけ使った。

たった一人、愛する貴方を目指して。


私は何日も何ヶ月も歩いた。

貴方のことを考えて歩いた。

あと少し。あと少し歩けば貴方に会える。

そう考えていればなにも苦痛なんて無かった。


どのくらいの時が経ったのだろう。

私は『ヒト』じゃないから時間は関係ないけれど・・・

『ヒト』は?『ヒト』には限られた時間しかない。

もしかしたら貴方はもう居ないんじゃないか、

そんなことを不安に思い始めた頃・・・


貴方の街にやっとついた。

私は迷うことなく足を進めた。

貴方の家に。


そして昔どおりに私は貴方の家の屋根に登る。

翼が無いから登るのは大変だった。


「よいっしょっと・・・」


やっと登りきった私の目に入ったのは・・・

空と、貴方だった。


「!?」

すこし年を取った貴方が驚いた顔で私を見る。

「私のこと・・・覚えてますか?」

無言で首を縦に振る貴方。

「遅く・・・なっちゃいました。 ・・・・・・!?」

気付いたら私は貴方の腕の中に居た。

久しぶりに触れた貴方の温もり。

「・・・あったかい・・・」

『ヒト』はこんなに温かい生き物だっただろうか。


・・・・・・違う。貴方だから温かいんだね。

ずっとこの温かさを求めていたのかな。

だから歩き続けられたのかな。


「もう、私は翼が無いから空に上がれません。

 だから・・・ここに居ても・・・いいですか・・・?」

「っ・・・」

返事の変わりにギュっと強く抱きしめられた。

なくしたはずの、居場所が・・・私に出来た気がした。

ううん。私の居場所はずっと決まってたんだ。

私の・・・大好きな、愛してる貴方の居る場所が・・・

私の居場所なんだ・・・。


貴方の耳元に口を寄せて、ずっと言いたかった言葉を言う。

私の想いを、伝える。


      大好き。愛してますっ

                      ~fin~