朝からぽつぽつと降っていた雨は、待ち合わせの時間には本降りになっていた。
それでも、彼女はフロントガラスを拭うワイパーのリズムにあわせて、どこか嬉しそうにハンドルを握っていた。
ふたりは高校を卒業して、少しだけ「別々の暮らし」に慣れてきた頃。
久しぶりの再会は、札幌から車で1時間先の新しい室内遊園地――ファンタジードームだった。
だけど着いた先には「本日休園」の札。
思わずふたりで顔を見合わせ、ちょっとだけ沈黙。
そのとき彼がふと、「ねえ、こないだパチスロ行ったって言ってなかった?」と笑う。
偶然目に入った『パチスロドーム』の文字。
「行ってみる?」と彼が言い、彼女も一瞬迷ってから、コクリと笑った。
1時間ほどで、財布はふたりとも軽くなったけれど、気持ちはなんだかあたたかくて。
「笑ってる時間が多かったね」
その言葉すら、なんでもないことのように流れていった。
夕方、彼女が言った。「どんでん寄って帰ろっか」
和風ファミリーレストラン。メニューを広げながら、
「これ食べたいけど…ちょっと高いな」と小さくつぶやく。
「いくら?」
「…150円」
彼は笑って、「さっきまで何枚千円札入れてたのか思い出して?」
ふたりは、ほんとうにおかしくなって、しばらく笑いが止まらなかった。
そのあと、ふたりとも遠慮せず、好きなものが全部入ったセットを頼んだ。
そして帰り道。
彼女は彼を友人の家まで送った。車を降りる間際、彼は小さく手をふった。
「また」――そう言いかけた彼女の口から出たのは、
「じゃね」だった。
そのひと文字ぶんの距離が、なぜかずっと耳に残った。
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この午後、なにひとつ特別じゃないのに、
きっとふたりとも、あとになって思い出す。
休園の札も、パチスロの音も、「どんでん」の湯気も――
全部、ふたりだけの“再会のページ”として、静かに心に残っていくんだと思います。 / 雨音
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