もう4年以上の付き合いになる年下のお客さま。

 

辛そうな就職活動も、希望の就職先が決まって喜んでいた日も、仕事が始まってキラキラうれしそうに報告してくれた日々もよく覚えている。

 

そんな彼女が、どうしたのだろう。

なんだか表情に昔ほどの明るさがない。

 

いや、笑ってはいる。

いつどおり、ふんわり可愛らしい笑顔で微笑んでサロンに来ることに変わりはない。

でも、どこか無理をしている気がする。

私の考えすぎなのかな。

 

 

それでも、施術が始まって体に触れると、私は確信する。

あぁ、やっぱり無理してるな。

 

身体と心は密接につながっている。

心が無理をすれば身体も確実に強張るのだ。

 

 

聞いてみようか。

いや、自分から話したくなるまでそっとしておくべきか。

何気ない日常の会話をしながらも、頭の中で色々考えながら施術をしていたら、ふっと彼女が黙った。

 

 

「雨音さんは、どうしてこの仕事をしようと思ったんですか?」

 

突然の質問。

 

「うーん。昔ほかの仕事をしていたけど、その時に仕事頑張りすぎて身体を壊してね。

そんなとき、よくマッサージにいって身体も精神面も救われたの。

なんだか力をすっと抜くことができて。

そんなお手伝いができたらいいなぁ。って思って、転職したのがきっかけだよ。」

 

「前のお仕事、やめることに迷いはなかったですか?」

 

「うーん。今となっては転職して本当に正解だったと思うけど、あの頃はそんなこと考える余裕もなくて、ただただがむしゃらだったよ。

でも、やってみないとわからないから、転職してみてダメだったら、そのときまた考えようって思って、とりあえず動いてみて、それが今につながっているから転職してよかったと思ってるよ。」

 

 

そこで彼女は突然泣き出した。

今の職場が辛いこと。好きだったはずの仕事が嫌になった自分にがっかりしていること。応援してくれている周りに仕事が辛いと弱音を吐けずきついこと。

少しずつ話し出してくれた。

 

 

わかる。

わかるよ。

好きだったもんね、今の仕事。

すごくやりがい感じてたんだもんね。

 

 

でも、日々は流れていくし、環境や状況だって日々変わっていく。

そして変わっていく毎日に、自分だって少しずつ変わっていく。

1年前の今日、すごく楽しかった仕事が今は気持ちが変わっていることだってなんにも不思議じゃない。

頑張り屋の彼女だからこそ、そんな自分を責めて日々気持ちに蓋をして頑張ってきたのだろう。

 

 

でも、人生にはきっとステージがあって、今の環境で学ぶことが終わったのなら、きっと次なるステージがあるわけで。

そこへ進むために、自分でも無意識のうちに気持ちに変化がでてくるのだと思う。

 

 

私も今のサロンを出すまでに色々な業種を経験して、5か所の職場を経験した。

そのどれもが決して無駄ではなく、長かった職場でも短かった職場でも、そこで経験した1つ1つが今に活きている。

 

 

転職しなよ!と、私が決めることはできないけれど、彼女より数年長く生きている私の経験談を伝えてみた。

もちろん決めるのは彼女自身。

それでも、心の中のモヤモヤを吐き出した彼女は、スッキリとした表情で帰っていった。

 

 

 

それからしばらくして、転職することにしたと連絡がきた。

 

 

今日少し久々に来た彼女は、この間とはうってかわって晴れやかな表情をしていた。

 

「慣れない毎日でクタクタだけど、仕事が楽しくて毎日充実してます!」

 

 

勇気を出して新たなスタートをきった彼女を、かっこいいなと思った。

悩まない人生なんてないし、誰だって壁にぶつかることもある。

それでも悩むだけ悩んで、勇気を出して足を踏み出した人はやっぱりキラキラ輝いている。

 

がんばれ、Nちゃん。