その晩、ベッドに入った私は色んなことを考えすぎて頭がパンクしそうになっていた。
契約のことや、土方さんの過去のこと。
それにあの斎藤さんって人のことも・・・。
気になることがてんこ盛りで困ってしまうけど、でもどうして気になっているのかってことは自分でもよく分からない。
上手く言えないけど・・・土方さんの事をもっと知りたいと思った。
だって彼は、どう考えても自ら望んで悪魔になったとは思えないから。
だからそこに、一体どんな事升學顧問 情があったのかを純粋に知りたいと思ったんだ。
それを知ったからと言って、私の置かれた状況が変わる訳でも無い。
そんなことは分かってるけど、もし何か役に立てることがあるならば・・・。
私は、さっき治してもらった指先を暗がりにかざしながらそんな事を考える。
・・・って、何考えてるんだろ、私。
自分自身が狙われてるこの状況旺角通渠 で、悪魔の心配してる場合じゃないでしょうに。
さすがの私も、自分のお人好しぶりに思わずため息を漏らした。
こんなだから土方さんに100年に一人の逸材とか言われちゃうのかな・・・。
「・・・とっとと寝ろ」
「す、すみません・・・」
私のため息が聞こえたのか、ソファーに寝ている土方さんから低い声が響く。
思わずぎくりとして、私は最早反射行動のようになってしまった謝罪の言葉を口にした。
「んだよ、眠れねえのか?」
「いえ・・・はい・・・」
「どっちだよ」
分かり易い突っ込みを入れられて、私は「はぁ」と間抜けな返答をしつつも、やっぱりこのままじゃ眠れない気がして口を開いた。
「あの・・・もし差支えなかったでいいんですが、土方さんが悪魔になったきっかけを教えてもらえませんか?」
「あ?なんでそんな事聞きやがる」
「いえ、ただの興味本位です。だから、話したくなければ結構ですので・・・」
土方さんは暫く黙ったままだった。
でも、私がスルーされたんだろうかと諦めかけた頃、彼は一つ咳払いをした後ぽつりと言葉を発した。
「随分昔の事だからな・・・あんまり覚えちゃいねえが」
そう言って始まった彼の話に誘われる様に、私はいつの間にかベッドから身体を起こすとソファーの方へと向き直り土方さんの話に耳を傾けていた。
「俺を悪魔にしやがったのは昔の上役だ」
「上役・・・?」
「ああ、俺は昔とある組織に属していてな、そこの長を務めていた男にこんな姿にされちまったのさ」
素っ気なく言った彼はふんと鼻先で笑う。
・・・土方さんの所属していた組織って一体なんだろう?
でも、とにかく彼を悪魔にしたのがエライ人だったってことだけは何となく分かった。
「俺はその男が気に食わなくてな・・・。何かにつけてはそいつに刃向ってたんだ。そしたらある日そいつの部屋に呼び出され、襖を開けた途端に刀で切りつけられた。
・・・後は意識が朦朧としてよく覚えてねえ。だが、気づいた時には俺は立派な悪魔に仕立て上げられてたってわけさ」
「そ、そんな・・・!」
「その男は俺たち一派にとっては目の上のたんこぶみたいな存在だった。いつか寝首を掻いてやろうと思ってたんだが、俺が手尖沙咀通渠 を出す前に先を越されちまったってこった。
そいつはとんだ悪党だったが、頭だけは切れる奴だったからな・・・俺の魂胆なんざすっかりお見通しだったんだろうよ」
「そんな事情があったんですか・・・」
「ああ、つまり俺はその瞬間から、何の心の準備も無いままに悪魔として生きて行く事を強いられたってわけだ」
それはどんな絶望感を伴うものだったのだろう。
私には想像もつかない。
そう考えれば、まだこうして猶予を与えてもらえるだけ私はましなのだろうか。
だって同じ結果になったとしても、心の準備をする時間があるのとないのでは全く違うと思うから。
「しかもそいつは所謂純血種でな・・・つまり生まれながらの悪魔で、もちろん途方もねえ力を持ってやがった。道理で人間の俺がいくら楯突いたって敵いもしねえわけだ。
だが・・・俺はこの姿を手に入れたおかげで、それからはその男ともそこそこ対等にやり合えるようになったんだから皮肉な話だよな。」
土方さんは自嘲するように笑みを漏らすと、天井を見つめたまま前髪をぐしゃっと掻き上げた。
「確か、悪魔って永遠の命を持っているんですよね・・・?」