とても懐かしい夢を見ていた気がする。目が覚めた時、自分が泣いていたのだと気づくのに少し時間がかかった。涙が頬で乾いていて、鏡で見るとその部分が少し光っていた。それが悲しくて流した涙なのか、嬉しくて流した涙なのかはわからなかった。
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花曇りの昨日、幼い頃に住んでいた街をふらっと訪れた。特に何か用事があったわけではない。そう言えば、あの辺りにはたくさん桜が咲いていたなぁと思い出し、天気の事はあまり考えずに家を出た。車を走らせれば大した距離ではないのに、引っ越して以来、私は一度もその場所を訪れた事がなかった。

記憶を辿り、公園の駐車場に車を止めて少し歩いた。空は相変わらず灰色だったが、雨は降っていなかった。小さな公園には桜の開花を歓迎するように提灯が控えめに飾られていた。桜の木の下にレジャーシートを敷いてお花見をしている人が少しだけいた。ウォーキングをしている人は桜の前で足を止めた。

湿った空気に包まれ、視界が微かに滲んでいた。辺りが明るいのか暗いのかよくわからなかった。まるで夢の中にいるようだと私は思った。すれ違う人の顔がぼやけている。確かに見ているはずなのに、桜以外のものが輪郭を失っていく。時間の経過が曖昧になる。自分の存在まで少しずつ溶けていくように感じていた。

グラウンドを囲うように桜が咲いている。週末には野球やサッカーをしている子供たちの姿があったと記憶していたが、その日は誰もいなかった。気づけば自分以外に人の気配がない。人がいなくなった過去に自分だけが戻ってしまったような気がした。誰もが未来を目指して歩いていく中、自分だけが、過去に。
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顔を丁寧に洗い、服を着替え、簡単に朝食を済ませた。窓を開けて外の空気に触れる。昨日の夜に降った雨でアスファルトが濡れていた。空はまだ灰色のままだったが、雲の隙間から微かに太陽の光が射している。春の長い雨はもうすぐ終わりを迎えるだろう。どうあっても時間は前へと進んでいく。
私はもう、あの街にはいないのだ。物理的な事だけでなく、精神的にもあの頃とは違う別の場所に立っている。失ったわけではなく、ただ戻れないだけ。今日は桜が違って見えるかもしれない。私はもう泣いていないし、今日は太陽が。思い出したようにくしゃみが出る。今日はまだ始まったばかりだ。