前編・中編とお送りしてきた「クリムト展」最後の記事です。展覧会で目に留まったクリムト以外の画家が描いた作品も二点ご紹介します。

 

 

 

 

『リア・ムンクⅠ』 1912年


グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)作

 

 

 リア・ムンク(本名:マリア・ムンク)は裕福な実業家の娘で、1911年12月28日、婚約者との別れを苦にしてピストル自殺をした女性です。当時彼女は24歳、婚約者であった作家のハンス・ハインツ・アヴァースは40歳と年が離れており、別れを切り出したのは彼の方だったと言われています。リアの死後、母親であるアランカが娘の肖像画を望み、アランカの妹でクリムトの支援者でもあったセレナ・レデラーが彼に依頼したとされています。
 
 死の床にある女性といえば、私はまず「オフィーリア」が頭に浮かびます。中でも有名なジョン・エヴァレット・ミレイのオフィーリアは作品自体が美しいにも関わらず、目を開けて水面に漂うその表情に、彼女は確かに死んでいるのだという恐怖も感じます。しかし、この『リア・ムンクⅠ』からはそういった恐怖は感じられません。
 
 リアの体は花(薔薇?)で囲まれ、目は閉じていて、口は少しだけ開いています。「ただ眠っているだけ」と言われればそういうふうに見えてしまうのは私だけでしょうか。亡くなった人を描くことは画家の伝統的な仕事の一つで、珍しいことではなかったそうですが、どんな感情でクリムトは彼女を描いたのだろうと考えてしまいました。
 
 
 
 
『女の三世代』 1905年

グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)作
 
 
 若い女性と幼子の安らかな表情とは対照的に、手で顔を覆いうなだれている老女。非情なまでに「老いていくこと」を突き付けられているような気分になる作品です。人間の一生を幼年期、青年期、老年期の3段階に分けて描いており、同じ女性の一生を表現したとの解釈もありますが、外見的な特徴が異なることから3人が赤の他人であるという説もあるそうです。
 
 個人的には、一枚のカンヴァスに描かれているにも関わらず「老女」と「幼子を抱く若い女性」という、全く別の絵を二つ合わせたような印象を受けました。彼女達の背景もそれぞれに異なり、若い女性の方は幸福と生のイメージを、老女の方は人生の黄昏時(夕焼けに黒い雲が浮かんでいるように見えたので)が表現されているように感じました。
 
 老女(崩れたスタイルや血管の浮き出た手)のインパクトが強く、老いることへの憂いや死に対する絶望ばかりが目についてしまったのですが、装飾的できちんと美しさもある作品だと思います。「自分には関心がない。それよりも他人、女性に関心がある」と語ったクリムト。彼の眼は、女性が美しく輝く時ばかりではなく、その美しさが過ぎ去った後の姿もしっかりと捉えていたのかもしれません。
 
 
 
 
『ミラ・バウアー』 1907年

マックス・クルツヴァイル(Max Kurzweil)作
 
 
 クルツヴァイルは画家兼アール・ヌーボー様式のイラストレーター、ウィーン分離派の設立者の一人でもあります。生まれはチェコ共和国ですが、1879年に家族(父親は実業家)とウィーンに移りました。1886年からウィーン美術アカデミー、パリに移った後はアカデミー・ジュリアンで学びました。1895年にフランスの女性と結婚。1909年から女性のための絵画教室の教師を務め、1916年に教え子で愛人でもあった女性と自殺したとされています。
 
 この作品に描かれている少女はクルツヴァイルと親交があった銀行家の娘(姉妹の姉の方)だそうです。花の前に佇む少女が柔らかな色彩で可愛らしく描かれています。愛人と心中したという画家のエピソードとは結び付かないくらい暖かくリラックスした雰囲気で、奇をてらった部分は少しもなく、素直にいいなぁと思える作品でした。
 
 
 
 
『エルザ・ガラフレ』 1908年

オットー・フリードリヒ(Otto Friedrich)作
 
 
 最後はドイツ人の女優エルザ・ガラフレの肖像画です。フリードリヒはハンガリーで生まれの画家で、後にウィーンへと住まいを移しています。ウィーン美術アカデミーとミュンヘン美術院で学び、前述のクルツヴァイルと同じくウィーン分離派の創設メンバーの一人でした。彼に関しては情報が少なく、アールー・ヌーボー様式でもあまり知られていない画家のようです。
 
 この展覧会で初めてこの作品を見たのですが、何の情報もない状態でもぐっと引き付けられる魅力がありました。商人の娘だったエルザは最初ピアニストとして成功し、後に女優の道へと進んだそうです。深い青のソファに座り、特別美人というわけでもない女性を描いた一枚。何がどう魅力的なのか言葉で説明するのが難しいのですが、この展覧会で一番印象に残ったのは彼女でした。
 
 
 以上で「クリムト展」の記事はおしまいです。文章にまとめるのが遅くなり、記事の更新が展覧会が終了する10月14日(月)ギリギリになってしまいました。クリムトは広く知られている画家なので詳しい方はたくさんおられると思いますが、少しでも観覧の参考になれば幸いです。次は名古屋市美術館で開催される「カラヴァッジョ展」に行く予定です。今年は芸術の秋を満喫したいと思います!