10月某日、名古屋市美術館で開催されている「カラヴァッジョ展」に行ってきました。イタリア国内の所蔵作品を中心に、10点あまりのカラヴァッジョ作品と同時代の画家達の作品を加え、約40点の作品が展示されています。
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョは言わずと知れたイタリアの天才画家。強烈な光と影のコントラストと写実的でドラマティックな作風が特徴で、バロック絵画の形成に大きな影響を与えました。彼は作品のみならず、殺人の罪を犯して逃亡生活を送るという、私生活においてもかなりドラマティックな人物です。
美術関係の記事ではいつも複数の画家の作品を載せているのですが、今回はカラヴァッジョの作品のみを紹介していこうと思います(展示数が少なかったということもありますし、他にあまり印象的な作品がなかったので)。彼の詳しいバックグラウンドについては書き出すと長くなってしまいそうなので割愛させていただきます。
『法悦のマグダラのマリア』 1606年
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)作
カラヴァッジョによる『法悦のマグダラのマリア』は模写なども含め複数存在しており、今回の展覧会で展示された作品(2014年に発見、個人蔵)は最も原画に近いものだと言われています。またこちらの作品は、2枚の『洗礼者聖ヨハネ』と共に、カラヴァッジョが死の直前まで手元に置いていた3作品の一つでもあるそうです。
マグダラのマリアは絵画の主題として数多く描かれてきましたが、カラヴァッジョの『法悦のマグダラのマリア』は他とは一線を画すインパクトがあります。「法悦」とは信仰によって得られる喜びを表す言葉で「ecstasy(エクスタシー)」と同様の意味を持ちます。このマリアにとってのエクスタシーはもちろん宗教的な意味でしょうが、ベルニーニの彫刻『聖テレジアの法悦』がしばしば官能的だと言われるように、こちらの作品も見様によっては性的なものとも捉えられる雰囲気を持っています。
マグダラのマリアはかつて性的に不品行(娼婦)だったとの説もあり、もしかしたらそんなイメージがこの絵に影響しているのかもしれません(あくまで個人的な感想です)。作者の意図はどうであれ、圧倒的なリアリティを持ったこのマリアが、現実とは少し違う場所で、震えるような強い何かを感じ取っていることが伝わってくる作品です。
『聖セバスティアヌス』 1606-07年頃
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)作
聖セバスティアヌスは3世紀ローマ帝国で、ディオクレティアヌス帝のキリスト教迫害で殺害されたと言われている聖人です。セバスティアヌスも絵画の主題としては有名で、杭に縛り付けられ、多くの矢を放たれて殉教した姿がよく描かれています。そのため、体に複数の矢が刺さっている絵が多いのですが、カラヴァッジョのセバスティアヌスには矢が一本しか刺さっていません。
体を貫く矢ではなく、人物の苦悶の表情にフォーカスを当てるためにわざとそう描いたという考え方もあるそうです。確かに、他の画家が描いたセバスティアヌスは矢が刺さっていても割と涼しい顔をしていたりするんですよね(もちろん例外もあります)。リアルを求めたカラバッジョだからこそこういう描き方をしたのかもしれません。
余談ですが、セバスティアヌスは歴史上最も初期のゲイ・アイコンらしいです(Wikipedia参照)。有名なケースとしては三島由紀夫著『仮面の告白』でグイド・レーニ作の『聖セバスチャンの殉教』がその象徴として登場しています。カラヴァッジョ自身もゲイだったのではないかという話があるみたいですが、真相は不明。彼の描く少年・青年が怪しく艶めかしい魅力を持っているため、そういう説が出てきたのではと個人的には思います。
後編へつづく



