今後の展開のキッカケとなる

ある出来事。


※これは事実をベースにしたフィクションです。


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【目の当たりにした空虚】



アンは大学を卒業後


ミッドタウンにある高層ビルの

最上階全フロアを占める

大手旅行会社に就職した。



主に出張の予約対応やフォローなど

企業の顧客を担当した。




その日は朝から新規顧客の可能性のある企業を

上司のスティーブと訪れる予定だったが



早朝からじんましんのようなものが出ていて

体調も良くなかった。

ここ2年ほどはおさまっていたが、

疲れた時によく現れるものだった。



机の上の時計を見ると、7時58分。

アンは仕方なくスティーブに電話をかけた。



「じんましんが全身と顔に出ていて

体調も良くないんです。

今日9時からのミーティング、

申し訳ないんですけど、、、」



「僕一人で大丈夫だから、今日はゆっくり休んで。」


アンが言い終わらないうちに

スティーブが子供に言い聞かせるような口調で言った。

「ありがとう。そうします。」




アンは会社にも休むと連絡を入れたが

全身痒くてしょうがないし、体は火照っていて

ゆっくり休んではいられなかった。




14丁目にあるかかりつけの皮膚科は

8時から診察をしている。


アンは身支度をさっと済ませて

地下鉄へと急いだ。




朝の混雑した地下鉄に乗り込み

全身の痒みと戦いながらも

アンは煮え切らない間柄の彼

マイクのことを考えていた。



彼とは大学で知り合ったのだが

自分のほうが先に卒業した。

もう会えなくなるかもしれない、、、。



そう思って卒業する前に

彼のことを想っている、

友達以上になりたいと伝えたが

マイクの反応は曖昧だった。




彼女はいないと言っていたので

”付き合う”というのに縛られたくないのか

自分が恋愛対象と思われていないのか

自分なりに解釈しようとしていた。



それでも彼のことは好きだったし

たまにマイクが気まぐれで誘ってくる

ランチを楽しみにしていた。



しかし最近はたまにメールのやりとりあるものの

あまり会っていない。このまま終わるのかも。



そんなことでモヤモヤしていた時

いつもの乗り換えや次の駅の案内とは違った

アナウンスが流れた。



「ワールドトレードセンターで事故発生の為

ワールドトレードセンター及びその周辺では

止まりませんのでご注意ください。」



ワールドトレードセンターで事故?

アンは血の気が引くのを感じた。



腕時計は9時を過ぎていた。



自分とスティーブが9時に訪れる予定だったのは

ワールドトレードセンタービル2にある会社だ。



10分程で14丁目ユニオンスクエアの駅に着き

地下鉄から出てスティーブに電話をしてみる。

電源を切っているのか電話は通じなかった。




アンはふと辺りがやけに騒がしく混雑しているのに気がついた。


救急車や消防車、サイレンが響き、走り去る救急隊。


状況が飲み込めず、なんだか取り残された感じだった。

何か手がかりがないかとアンが周りを見回していた時

直進の延長上に2つのビルから煙が上がっているのが見えた。




ツインタワーが。



何故2つのビルから煙が?

燃え移るとしても距離がある。

アンは不思議に思った。



隣にいた白髪の男性が

「ペンタゴンに飛行機が突っ込んだらしい。テロだ!」

と隣の女性に話していた。




テロ?


頭の中で情報を整理しようとしたが

パニック状態で考えられなくなっていた。

そこで真っ先に電話したのはマイクだった。



「大丈夫?今どこにいる?」

すぐに応答した彼の声は緊迫したものだった。


「ユニオンスクエア。テロだって言っているのを聞いたけど、何が起こってるの?」

アンは彼の声を聞いて少し心強く感じた。



「俺今日仕事休みだったから家にいたんだけど

ハイジャックされた飛行機が

ツインタワーとペンタゴンに突っ込んだって

ニュースで見て君に電話したんだけど

通じなかったから心配してたんだ。」




もくもく上がる煙がどんどん空を覆って行き

黒い空になっていくのを眺めながら

アンは呟いた。


「私どうしたらいいのかしら。」


マイクは幾分冷静さを取り戻した様子で

「テロでどこが爆破されるかわからないから

地下鉄に乗るのはやめたほうがいい。

会社に行ってみたら?

そこからなら歩けない距離じゃないよね?」

と、アンに提案した。




「うん。また電話するわ。ありがとう。じゃあね。」



アンは電話が切れたあとも

しばらく携帯を耳に当てたまま

目の前の光景を傍観していた。



ハッと我に帰り

「きっとスティーブも大丈夫。

ビルの中の人達も救助されてるわ。」

そう願いながら後ろを向こうとした時だった。




煙を吐き出していた巨大なビルの1つが

煙を上げて砂の城が崩れるかのように

その形を変え一瞬で沈んでいくのを目の当たりにした。




これは夢? まさか!

アンは信じたくない現実を認めることができなかった。




周りには人が群がっていていて

泣きじゃくる人、叫んでいる人、走っている人

祈っている人、抱き合っている人達でごったがえしていた。



今まであったビルが消え

そこにぽっかりと空間ができていた。

そしてもう1つのビルはまだ燃えている。




あんな高いビルが一瞬で崩れるなんて。



放心状態でアンは

次に何をすべきなのかなど考えられなくなっていた。




目の前に突如できた空間と

その隣で黒煙と炎が吹き出すビルを

ただ呆然と眺めているだけだった。



どれくらい時間が経っただろう。


止まっていたアンの思考がやっと動き出した。

「ここに居てもしょうがないわ。

皮膚科に行ってる場合じゃないし。」

じんましんの痒みなど感じなくなっていた。



やっと頭が働きだしたところで

それを阻止するかのように



もう一つのタワーが音をたて同じように崩れていった。




目の前にさっきまであった2つの巨大なビルが姿を消し

ただ煙と空虚だけが存在していた。





アンは無意識でゆっくりと後ろを向き

人々の隙間をぬって歩いた。





次の日にわかったことだが

スティーブは行方不明になっていた。



数日後

アンはある女性との不思議な出会いをキッカケに

思いもよらない方向へ導かれることになる。









To be continued....


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占い師が言った「劇的な人生の転機」。


ある女性との出会いでアンは何を経験するのか。。。