ひきだしにテラリウム 九井諒子 描くことを積み重ねる | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

☆☆☆☆★ 描くことを積み重ねる, 2016/3/13

 やはり久井諒子さんと言えば、今や一世を風靡する代表作となった『ダンジョン飯』になってようやく、一般に『エンタメ』として確かに提供できる技量を獲得したという印象で、このショートショート、ひきだしにテラリウムについても、半分弱くらいまではあまり面白いとまでは思えません。
 独特なファンタジー世界に現実味を持たせるのが久井さんの作風だと感じますけれど、前半は独自性のある世界を切り取ってはいても、切り取るだけに終わっていて、物語としてはかなり薄く感じられます。
 世界が提示されて、その中で何かが展開するわけでもなく、すぐに終わってしまう感。
 そういう印象が薄れていくのは、『えぐちみ代このスットコ訪問記 トーワ国編辺りから。ここら辺からある世界を提示した上で、興味深い物語に仕立て上げているというか、読んでいて面白いし、オチも捻ってくるという印象が強くなってきます。
 前作の『九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』については、独特な世界観を誇ってはいたけれど、面白いとは思わなかったし、好みでもなかった。『通好みの作品だよね』という印象だったけれど、この作品はしっかりエンタメし始めているし、物語としての質も上ってきていると思う。
 独特な世界観を武器にしている漫画家も、続けて描くことによって物語を描くことに秀でていくわけで、やっぱり継続って力だな、とか感じちゃいました。



ひきだしにテラリウム