今日は高校の入学式だが、既に高校2年生である僕は登校時間などに変化はない。
いや、しかしそれは、入学生でも変わらないのかな?
確か入学式は9時からだったっけ……。
そんなことを思いながら校門の前まで来ると、校門に背を預けた、新入生のワッペンを付けた女生徒がいた。随分とお早いご到着だ。そして、これから入学する高校に対して、ずいぶんと不遜な態度じゃないか? そんなことを思いながら、ただ通り過ぎようとすると、
「あ、センパイ。ちょっと待ってください」
と声をかけられた。
無視しようかと思ったけれど……やめておく。
「何か用かな……新入生風情が」
僕に何の用かな……かわいい子猫ちゃん、と言いそうになったので、言い換えたらちょっと変なことになった。冗談だ。
「はい! 新入生風情があなたに読んでもらいたいものがあるんですよ! はい、この場で読んでくださいね……」
手紙を取り出した時点で、即効で鞄に入れてあとで捨てようと思ったのだけれど……あまりやっかいごとに関わりたい性格でも立場でもない。
「何……まさか、初対面でラブレターとか、サイコなことはやめてよね……」
軽口を叩くと、
「はい、そのまさかです! さすがですね――ボマーさん」
「――!」
僕は動揺を押し殺しつつ、手紙を読む……。僕の素性を知っている……能力者か?
手紙にはこんな風に書いてあった。かわいらしい丸文字とかではなく、パソコンでタイプされたものを印刷したようで、フォントも明朝だった。犯行声明にも見える。
「あなたの未来はこのように決まっているんです。だから、私と早く付き合うことをオススメしますね!
4月10日 2人のオンナノコとボマーさんが知り合いになる。
5月 死との対面
8月 死との対決
10月 ボマーさんとジンジャーさんが付き合う
11月 ボマーさんとジンジャーさんが喧嘩別れする
12月 私とボマーさんが付き合う……HAPPY END♡」
まず、ボマーという僕の能力者名、そしてジンジャーのことも知られている……。やっかいだな。でも、取りあえず気になるのは……。
「この死との対面っていうのは何?」
「いや文字通り、死、そのものとの対面」
「ふうん……これ、本当に起こるの?」
「わからない」
ううん……なんか随分といい加減な未来予知もあったもんだ。っていうかこのHAPPY END♡表記、未来日記の我妻由乃気取りなのかな……あんなヤンデレなオンナノコを名乗られて、それがアピールとなっているのかな……。とりあえず、漫画を読む娘だということはわかったけれど、しかし彼女のパーソナリティを知ることにどんな意味がある?
「君は僕がすき?」
「大好き!」
「僕はまだ君のことを何も知らないけれど、いきなりこんなことをされるとビックリはするね……」
控えめに拒絶したつもりだったんだけど、
「でも、それでも知ってもらえたから。
私の名前は御神楽九弧(ミカグラ・キューコ)」
「ああ、それ、僕が好きな漫画の女の子の名前と音が同じだ……」
「Qコちゃん? ウエダハジメっ?! やっぱり趣味が合――」
「いや、胡娘(キュウコ)。キュウリのキューちゃんの娘さ……」
くだらないウソを言って、
「そろそろ、入学式会場にいけよ」
と彼女を促す。
「ふふ……まあ、まずは今日ですね。次に会う女の子も美しいですけれど、目移りしないでくださいねっ?!」
てってって……と彼女は走り去っていく……。
いや、君のことなんか目移り以前に目に入ってすらいない状態なんだけれどね……あまりにもポジティブで前向きで……騒々しい。
明るい人間は好きにはなれないな、と僕は思った。