ガルボ・ヒメユリ編1日目。その2。 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 ガルボ・ヒメユリ編1日目。その2。

 私の前を明日耶さんは先行しつつ後ろ向きに歩きながら(さいわい誰ともぶつかることはないのでした。まるで校舎に誰もいないように)、得意げに話すのでした。
「甘夏ちゃんは学校の怪談について、どんなのを思い浮かべるのかな?」
「え、えーと……例えば、目が動くベートーヴェンの肖像画、廊下を走る人体模型、勝手に鳴るピアノ、一段増えている階段……とこんなところですか?」
「ふぅむ。まあベタなところはおさえているみたいだねん。
 じゃあさあ、そういったものって、どうして生まれるんだと思う?」
「え? どうして、ですか?」
「うん。学校の怪談はどうやって生まれるのか?」
「そもそも、学校の七不思議みたいなのがパターンとしてあって、それが全国の学校それぞれにある、とかそういう話ではないんですよね……。
 初めにどうして生まれたか? ううん?
 たとえば、先生が生徒を学校に残さないために、早く帰るように脅した?
 あるいは、夜の学校って不気味だから、自然発生的に生まれたんでしょうか?」
「じゃあ、7つある理由は?」
「学校ですから、法則・規則みたいな――ルールみたいなのが好まれたんじゃないでしょうか」
「ふうん」
「明日耶さんはどのように考えているんですか?」
「私はね……お化けが自己主張したかったからだと思うな」
「ふふっ……お化け側から捉えるんですね」
「学校を選んだのは、きっと子供なら脅かしやすいからじゃないのかな」
「なるほどな――そっち側からは考えたことがなかった」
 常に驚かされる、人間の側からしか発想できなかった。
 学校の怪談を、ホラーの亜種としか、認識できていなかった――

 明日耶さんはまるで廊下が無限回廊になったかのように、ずっと後ろ向きで歩き続けているように思ったのだけれど、それは気のせいだったらしく、普通に校舎の端にまで到着し、私たちは帰宅することにしました。

 校庭をふと見ると、見慣れない遊具があって、まるで小中学生を連想させるような、遊具があって、そこに三人の子供が遊んでいました。
 明日耶さんと学校の怪談についての話をしたからだろうか、私は夢を見ているような、どこか現実感が乖離した気分で、それを見ていました。
 女の子は、おかっぱ頭の子と、ぼさぼさ髪で背が高い子、活発に逆上がりするツインテールの子がいたのです。
 私がそれを明日耶さんに教えようと、一度目を離すと、それはまるで幻のように消えてしまいました。
「今、三人の女の子がいました」
 明日耶さんは事もなげに言って、あやしいほほえみを浮かべます。
「ああ――それは三人の座敷わらしだよ。姫学の学校の七不思議、一つめだ。

 ――目撃しちゃったね。甘夏ちゃん」

 その言葉はひどく不吉な、これからの始まりに、聞こえてなりませんでした。