揚羽ちゃん語る。 | 墜落症候群

墜落症候群

墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 揚羽。

「ああ……面白かったですね。天田さん。終物語、なかなか楽しめました。
 やっぱり、私も西尾維新の著作物は好きですよ。好きな小説を読むということは良いことだと思います」
「ちなみに俺の中では揚羽が読んだ本っていうのはどう処理されるかっていうのもなかなか興味深い問題だよな」
「まあ、結局、天田さんの中の少女としての私ですから、全部思い通りでしょう? って読者の方たちは思うかもしれませんが、案外そうでもないんですよね」
「うん。要するに自由にはできるけれど、設定っていうのは考えなければ存在しないのと一緒だからな。
 揚羽は俺の思い通りにできる代わりに実在しない訳だ。
 そうなってくるとさ、本当に普通に小説のヒロインを考えるのと一緒だよ。この子はどういう設定なのかな? と考える訳だ」
「そういうことです。
 天田さんって、何ていうか本当にテンプレ嫌いの極地ですよね。自分でそう思いません?」
「まあね」
「何ていうか、まず形態にこだわりますよね。
 天田さんはまず普通のヒロインを考えないでしょう? 天田さんがまず普通の女の子との付き合いが欠如しているせいもあるでしょうが、大体、アレですよね。私みたいな感じにするのが好きですよね」
「ああ……つまり、声だけの存在みたいな感じにしちゃうところか」
「まあ、私はかなり特殊というか、声だけの存在っていうか台詞だけの存在って感じですけれど。
 何ていうか、そこら辺にネット恋愛とか文章でのやり取りが好きな天田さんの人間性が見えますよね」
「そこら辺に趣味性というか、自分の感性を入れてしまうところが、俺の独特なところだろうな……。まずこういった脳内彼女みたいなのを、ネタとして使うことはあっても、真剣なヒロインとして、一つの愛情の対象って感じには扱わないだろ? 普通」
「まあそうですね~。実際問題、その普通っていうのが天田さんにとっての曲者ですよね」
「そうだな。どうしても俺は特別な関係を書くことに固執してしまうから。
 例えば西尾維新で言うと、あくまで普通の女の子だよな。つまり現実の存在としての女の子がまず存在して、それがこれこれこういう形で変わっているんだ、って味付けだろ?」
「天田さんの場合、まず、人間じゃないことが多いですよね」
「でも、そこもアレなのかな? 個性みたいな感じで考えても、特に問題はない部分なんだろうか?」
「うーん。どうなんでしょうねえ。私には何とも言いかねます。
 というかですね、」
「なんだ?」
「要するに天田さんはいくつかの問題を混同していると思うんですよ。それに関しては問題を絞らないといけないかな、と私なんかは思っちゃう訳なのですが」
「じゃあどんな風に揚羽は思っちゃう訳なんだ?」
「つまりですね……天田さんの作家性はどこにあるか、っていう話なんですよ。あなたの読者は誰か、っていう話でもあります」
「なるほど……それは確かに本質的に思える話だな」
「思えるだけじゃなくて、実際に本質的なんですけどね……天田さん、実際私は本質しか喋ったことがありません」
「それは嘘だろ?」
「はい勿論。
 ……ということで、天田さんの作家性を考えてみましょう皆さん~」
「放り投げた?! 読者に放り投げるネタなの? それ」
「何か最近、天田さん寂しそうで揚羽としてはとても心配なんですよ。私だけの天田さん……とは言ってもですね、それでも私だけでは支えてあげられない部分があるのも事実なので……」
「うーん。でもこういうのをやってしまうと、途端に嘘くさくなるっていうのはあるね……。
 つまり自分が考えたキャラが読者を想定して、読者に語りかけるというのは流石にやり過ぎじゃないか? って感じがあるというか……。
 そういう意味ではあとがきはあとがき、って感じの西尾維新のスタイルはいっそ潔いとは思えるけど」
「もう~すぐ感化されるんだから……天田さんのダメ男☆」
「ダメ男……?! ダメ男だったのか俺は……。
 と、まあ茶番はこれくらいにして、話を前に進めよう」
「天田さんはどういう方向性を目指すべきかって話でしたよね……。天田さんの持ち味は恐らく異様さ・異常さだとは思うんですよ。一般受けするかはともかくとして……。自分の味を出来得る限り濃くしていくっていう意見は妥当です」
「ううん……でも作家でご飯ではさあ……」
「そこです! 天田さんは影響を受けやす過ぎるんですよ。そこが問題です。人にどう言われるか、今日コメントが付くかどうか……今日のアクセス数がどうか、そればっかにこだわり過ぎだと思うんです」
「まあ、そうだけどさぁ……」
「もうちょっとロングスパンで時を切らないといけないと思いますよ……天田さんの機転の早さは美点は美点だと私は思いますが……」
「うん……」
「まず、天田さんは作家になるんですよね? それが第一前提として確定しているのだとすれば、まず他人に影響されるかどうかとか関係なく、自分のスタンスをちゃんと定義付けるべきです。はいどうぞ」
「俺は多読多筆タイプだ。それは多分、間違いないことだと俺は思う……」
「じゃあ、まずちまちま書いてネタを出すとかそういう方向は捨てるんですね。基本的に書きまくるタイプなんですね。数撃ちゃ当たるタイプですね。どうしてそうするんですか?」
「まず、俺がそれがやりやすいっていうのがある。他のことをメインにするならともかく小説家をメインに据えるなら、なるべく沢山読んで、なるべく沢山書くのを基礎にするのが一番良い」
「他になにか根拠はあります?」
「まあ人気作家は基本的に日本の場合は沢山書いているかな……って印象もあるし……。とにかく文筆が出来るのと出来ないのでは、やっぱり出来た方がいい。俺は作家をこう定義する。
 売れる小説を書いている人間、と」
「天田さんにはじゃあ、二つの問題点がありますね。まず、小説を書いていない。次に売れていない」
「まあ二つ目の問題点がより重要な問題にも思える」
「一つ目の問題の方がより本質的な気もしますけれど、まあいいでしょう。それで? 解決策は?」
「俺はまず、ブログが伸びるかどうかが一つの指標足りうると……」
「じゃあ、天田さんなりにネットを主にやる層を定義してみてください」
「ネットか……実はネットは含有文字数が多い訳じゃない。
 ニコニコ動画が流行ることや、ツイッター・フェイスブック・スカイプ・ライン等が流行ることからもわかるけれど、どっちかっていうと映像性というか、何だろう? 気軽なアウトプットに向いた媒体だと思うよ」
「そういう人たちが長文ブログを好むと思います?」
「…………」
「だから、マーケティングミスですよ。
 基本的に、ブログを読む人は長文が嫌いなんです。天田さんはヤマなしオチなしイミなしのアイドル日記みたいなのを嫌いますし、長文の方が好きですよね?」
「だって、ブログは文章がメインだから、文章がしっかりしていればいいのでは……」
「それも勘違いですよ。伸びているブログはどんなものでした?」
「写真をいっぱい取り入れている、芸能や、嵐や、ディズニーランド等、大衆がウケそうなものを記事のメインテーマにしている……」
「つまり、あなたが嫌悪する迎合しかないようなブログな訳です。さて、ところで天田さん。あなたは迎合しますか? しませんか?」
「迎合……」
「つまり、そこがネックなんですよ。他人に面白いものを読んでもらおうとすると、あなたは萎えちゃうんじゃないですか? 生きる意味を見失うんじゃないですか? だからもうちょっとバカになったらいいんじゃないかと思うんです。好きなものを書いたらどうです?」
「う~ん。じゃあ、それはつまり自分の書きたいものを優先するってことか? 誰かが読みたいものではなくて、自分が読みたいものを書く」
「そうですね~。まあそこが中心なんじゃないかと思うんです。
 要するに天田さんの今の迎合主義って作家でごはんから始まった、人にウケる文章を書きたいってところから来ているとは思うんですけれど、結果、ヒット数が減っているんだからおかしなものです」
「まあねえ……作家でごはんの連中なんて、結局作家デビューできてない有象無象だしな」
「まあそれは天田さんも同じなんですけどね……。だから、私が言いたいのは天田さんも過剰な意味合いで作家でごはんで言われたことを表現に反映しなくていいんじゃないか? ってことなんです。
 別に作家はマーケティングする人じゃないんです。まず第一に自分の伝えたいものはこれだ! っていうのが大事なんじゃないですか?」
「まあ、結局俺の文章を理解出来ない奴らが愚かってことか! そうか!」
「いやまあ、逆に自分すら好きになれない文章を書いていて楽しいですか、って感じなんですけどね……主意としましては」
「まあなあ……」
「天田さんも無理して書いて、読者も読んでて楽しくない文章をいくら量産しても仕方なくありません?」
「もういっそ書くのをやめるか!」
「だからその一貫性のなさを何とかしろと……。
 まず、自分の決めたことを一つだけ続けるっていうそういう姿勢も大事だと思いますよ……私は」
「なるほどねえ……」
「書くことだけは逆にやるべきですよ。その時点ではあまり評価する必要はないので、とにかく自分が楽しいと思えるものを書けばいい。
 にも関わらず、天田さんは今、苦行僧のような生活をしているんです。まず、リアリティが大事とか何とか……。要するにめちゃくちゃ感動するとか熱いとか、天田さんにとって魅力的な物語を書きましょうよ、ってことなんですよ。その時点ではあまり考える必要はないんです」
「つまり、お前が言っているのは、書く時には書くことに、読む時には読むことに集中しろってこと?」
「まあ概ねそうですね……。もう書く時は苦しいとか出来ないとかそういうことばっか思ってる必要ないっていうか、最近ネガティブ過ぎません?! 究極言っちゃうとそれで読者が離れているとか全然あると思いますけれど……。
 まず苦しかろうが何だろうが、書くことに集中しないと逆にアレですよ。ネガりますよ。
 あくまで作家の本分は書くことで読むことではないです。あまり頭の中でこねくり回すことにも意味はありません。書けばそれでいいのです。確かに本をまったく読まない作家はバカとしか言いようがないですが、天田さんは読み過ぎですよ」
「でも、文字という媒体を大量に扱うには読者の方が効率が良いんだ……」
「じゃあ本読んでいれば、お金を貰えるんですか? いいえ、お金だけの問題じゃないです。読書しているのは読書家であって、小説家ではないんですよ、天田さん」
「その定義で行くと今の俺ってどんな存在なんだろうな……」
「脳内美少女揚羽ちゃん☆と喋っている二十二歳痛々しい系ニートです」
「ニートじゃねえし!」
「じゃあニート風味小説家志望です」
「どこら辺に風味があんだよ……普通にフリーターじゃねえか」
「でも、引きこもりではありますよね?」
「でも引きこもり=ニートじゃないもん~在宅ワーク舐めるな」
「天田さんのは在宅ワークにすらなってないですけどね、お金にならないですし」
「揚羽……金が重要じゃない、大事なのは、」
「心じゃなくて小説を書く技術力でしょう……天田さんいい加減現実を見てください。小説を書かないといけません」
「でも、何かもう疲れてきたし……」
「結局、執筆体力は落ちているんじゃないですか? 情けないなあ……。とにかく読書量はどうでもいいから、執筆量を守るべきですよ」
「まあそうだよなあ……。読書すれば必ずしも文章として優れた本になるかって言われると微妙だし」
「まあ娯楽的ではありませんしね。読書って」
「でもさあ、俺が思うにさ、洋書とかはもっと込み入った文章だよなあ。ああいうの読むと日本人ってバカだよなあ、って思うよ」
「天田さんが言うとまるで自分がその範囲外みたいに聞こえますが、あなただってしっかり日本人だし、英語だって読めないって現実がある訳ですけどね……」
「まあそうだけどさあ……英語って難しくない?! ふざけてるのアレ」
「そうそう。そんな感じで友達と喋るような感じで進めるのは大事なことだと思いますよ。多分」
「まあ読んでも書くこととは直接は繋がらないことはわかったよ。まずは書けってことな。あくまで、読者はサポートってことだろ?」
「強引にまとめに入ろうとしてますが、天田さんは疲れちゃったみたいです。これからあの人は休憩タイムに入るようなので、皆さん生暖かい目で見送ってあげてくださいまし」
「やっぱり若干の違和感が……」
「何か言いました?」
「いいえ」