エディンバラの夢。 | 墜落症候群

墜落症候群

墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 雑文からシングルカット。物語のアウトライン。



 エディンバラの夢。

 古道具屋の女主人は唐突に死にたくなった。

 自分なんて、死んだって、誰も気付かないよね? ふとものすごく人生の虚しさに駆られて。

 屋上の縁に足を掛けて、大して躊躇なく飛び降りる。

 叩き付けられて薄れゆく意識の中で、

「こんな人生じゃなきゃ、死にたくならなかったかな」

 なんて、エディンバラは夢を見る。

 エディンバラは夢を見る。

 夢の中。

 エディンバラ・キャスケットは女刑事。

 クールな女の美貌なの。

 見惚れた間抜けな犯人を今日も簡単に逮捕するのよ! 

 でも、そんな彼女には、同僚の信頼が付いてこない。

 危険な仕事に1人回されて、誰も彼女の窮地を助けに来ない。

 彼女は1人、お腹を撃たれて死んでいく。

 エディンバラは夢を見る。

 エディンバラは夢を見る。

 エディンバラ・マランスキは人気弁護士。

 どんな裁判だってお手の物。

 依頼人からの信頼も厚くて、彼女は引く手数多の忙しさ。

 でも彼女が病気になったら、誰も見舞いに来なかった。求められてたのは仕事ぶり。何も出来ない彼女に価値はない。

 衰弱する彼女は独り病死した。

 エディンバラは夢を見る。

 エディンバラは夢を見る。

 死にかけの彼女から、ふわふわと不思議な泡が立ち上った。

 それは空高く浮かんで風と飛ばされ、窓から入ってあなたの頭の近くで弾ける。

 あなたもまた夢を見る。

 あなたもまた夢を見る。

 エディンバラ・トフノスカは恋多き女。
 
彼女は魅惑的な肉体で、色々な男性の注目の的。

 女性たちからは嫉妬の嵐。

 数多くの男たちと恋をして、だけど全部こちらから別れてやった! 

 1つだけ不満。

 誰も彼女の本心を、きっと分かってはくれないの。

 彼女はストーカーに刺殺されて、ゴシップ誌の売上を伸ばす。

 あなたは目を覚ます。

 どうにも不思議な夢を見たな。

 同じ女性の、人生だけが異なる夢。

 あなたは女子高生だったかもしれないし、サラリーマンだったかもしれない。もしかしたら魔法使いだったかも。

 いつもの通勤・通学路から、ちょっとぼんやり逸れてみる。

 何だかそんな予感がしていた。

 暗黒街では誰も気にかけず通り過ぎる。

 そこにはあなたが夢に見た、女性がどうやら飛び降り自殺。

 まだ何とか息がある。

 あなたは夢のせいで他人事と想えない。女性の身体を抱え上げた。

 エディンバラはようやく分かった。

 自分が自殺してしまった理由。

 人生の華やかさの問題じゃない。

 私の人生には、きっと隣にいてくれる、本心を理解してくれる誰かがいなかった。

 でももう手遅れだなあ、誰かに分かってくれだなんて。

 そう想ったエディンバラを抱えた手。映る顔。

 何だかお伽話みたい、と彼女は想った。

 人生の最後に、抱きかかえてくれる誰かがいるなら、それでいいや。

 ずっと求めてきた、求めても得られなかった、本当に大切な何か。

 あなたは冷たくなる彼女に、一筋だけ涙を零す。

 見ず知らずの他人なのに、どうしてこんなにも知ってるんだろう。

 エディンバラは逝く前に微笑んだ。

 ――エディンバラにとっての王子様は、あなただったのです。

 きっとあなただったのです。