時計仕掛けの俺ん家

時計仕掛けの俺ん家

どうしてもいつか 誰かが使い古した ありきたりな言葉しか思いつかない

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暴利軍は秋の示威湾戦初戦を敗退。その後も連戦連敗の日々を送っていた。


「わ、わしはここで死ぬのか……」


今日の毎日王冠も京都大賞典も負け戦だった暴利軍の将、小津安太郎は砂漠の真ん中に倒れている。


「どうして日本に砂漠なんてあるのじゃ……あ、きっとここは鳥取砂丘なんじゃ……それなら無理もないわい……てか、その前に死んでまうやろ……」


小津の目にそれはそれは立派な馬が駆けて行く姿が映る。


「戦は日曜日で終わりというのに……蜃気楼まで見えてしまうとは……どうやらここまでのようじゃな……せめて、せめて討ち死にする前に一勝くらいあげたかった……」


蜃気楼に向かって小津は右手を伸ばす。しかし、その手が力なく砂に落ちると再び動き出すことはなかった。小津安太郎、享年39歳。


「待たれい小津殿!!!!討ち死にはまだでござる!!!」


目の前の砂の中から拝血糖が顔を出した。


「おおおおお……おがみ殿……拙者はもう駄目でござる……秋華賞はホエールキャプチャーの単勝に100円……いや……複勝に100円を香典代わりに……」

「何を申される!そんなのでは100円しか戻ってこないではござらぬか!そんな気弱な馬券を買うお主ではなかろう!気をしっかり持つのじゃ!」

「いや……もう拙者が手に出来る馬券はそれくらいしか思いつかぬ……せめて最後は的中の判子を……」


「喝!!!!」


砂から飛び出した拝血糖は、刀を抜くなり小津の顔面の横に突き刺した。


「おわっ!な、何をするでござる!刺さったら死んでしまうではないか!」

「バリバリ生きておるではござらぬか!それよりも殿は明日出陣するでござる!」

「なんと?明日は月曜日……しかも何故、示威湾戦でもないのに殿が出陣を?」

「これを見なされ!」


拝は懐から出馬表を取り出す。


「こ、これは……示威湾戦?しかも砂の?」

「さればこそじゃ!何故、お主がここで上手い具合に倒れておったかわかり申したか!」


「しかもじゃ!」


小津の後ろの砂の中から会津見抜刀斎が顔を出す。


「あ、会津殿まで……」


「この火急の出陣で殿は軍議無しで各々攻めよとの仰せ。ここで我々が勝ち戦に持ち込めばこれもんで、これもんでござる!」


会津は砂の中から右手を斜め上に動かす。


「おおおおお!!!まさに上げ上げでござるな!!!今まではあの愚か者二人のせいで実力を発揮出来なんだ……この機会を逃すわけには参らぬな!」

「左様!!!いまこそ我ら三人で見事敵将の首を挙げる時ぞ!!!」

「しかし……意見がまとまるかの?」

「我らは所詮手勢が心もとない……ここはビシッと行かねば……」

「いやいや!それよりも勝ちにこだわるほうが先決じゃ!下げ下げの今の我らが大物を狙っても獲りこぼすだけじゃ……」

「ならば……それぞれに挙げた馬でボックス作戦か?」

「それが妥当じゃろ……前に通ってたスナックのママが言っておったわ……諭吉は淋しがり屋じゃから、お友達が沢山いる所を探して行くんじゃと……当たり馬券もしかり!今のスカスカの我らのとこに当たり馬券を呼び戻すには、まずは一枚手に入れないと友達を連れてやってこん!」

「先週から諭吉は去ったままで一向に帰ってくる気配がござらぬ……」

「さればこそじゃ!まずは当たり馬券の一枚を確保して、その後に諭吉もろとも呼び戻すのじゃ!」


拝は出馬表を叩く。


「では行き申す!トラセンドはどうするのじゃ?」


いきなり二人は黙り込んだ。


「い、如何した?お主等、まさかトラセンドを切るつもりでは?」


「某の駒でトラセンドを出さねばならぬのか?」


小津は困惑したように言った。


「そ、某もトラセンドは必要とは思うが……他の思う所があっての……」


会津も口ごもる。


「な、なんと……お二人共にトラセンド以外の駒があるというのならば……某がトラセンドを出そうではないか」

「おおおお!流石は拝殿!ここで自分が引くとは大人じゃの!」

「某が他を出してしまえばトラセンドを切ってしまうことになりかねん……それでは安全に的中馬券を手にする目的が失われるわい」


会津は砂から這い出ると、拝の手を取った。


「かたじけない!某、訳は申せぬがどうしても3枠二頭を攻めたいのじゃ!」

「なっ!……そこでいきなり二頭でござるか?」

「堪忍じゃ!決して土曜日に皆が踊らされたようにルドルフのサインとかではござらぬ!」

「むう……ではなんとか手勢を分けるしかござるまい……トラセンド、ブラボーデイジー、ランフォルセ……では小津殿は?」

「某は、なんとしてでもバーディバーディでござる……これだけは譲れんのじゃ」

「こ、これまた人気薄のところに来たのお……」

「ブラボーよりは人気があるでござる!」

「そうなると……エスポワールとダノンは消しと……不安になってきたでござる……安全性とはかけ離れてしまったような……」


ここで三人は黙り込んでしまった。


「大荒れはないとしても……上位だけでは決まらなそうなことは間違いなかろう……」

「紐荒れくらいまでは行きそうじゃ……」

「トラセンドから手広く流すのが確実そうじゃが……」

「そ、それじゃ……それしかあるまい。そうなれば本来は開催するはずの盛岡競馬場の別名オーロパークに因んでオーロマイスターまで手を広げられるでござる。12Rはそのままオーロカップでござるからの」

「ならばエスポワールも入ってきても大丈夫じゃな?」

「それを含めても流せば5点じゃ……トラセンドは飛ぶまい……信じるのじゃ……我等の諭吉里帰り作戦の第一歩と思えばよいではないか?大物を狙うのはそれからでよい!」


三人は立ち上がった。


「これで決まりじゃ!各々方!ご武運を!」

「おおおお!!!!」

「諭吉!!!!カンバ~~~ック!!!!」


其々の想いを胸に三人は歩き出した。


明日への勝利へ向かう足取りは、砂に取られて思うように進まなかった。







ローズキングダムは消し カンカン泣きはハッキリしているし、陣営もそこは気にしている。先週、今週と併せた準オープンの馬に遅れたのも不満。差し勝負になりそうな展開は向くが、このスローペースで前が一頭も残らないはずはない。差し同士で決まらないとなればローズは完全に消しでいいと思います。


3 - 1 4 5 6 8



「おわぁっ!」





運転席で寝ていた北村はいきなり跳ね起きた。





「どうしたんすか?」





助手席の戸田は怪訝そうな表情で北村を見る。北村はかなり汗をかいていた。





「やべ……今……夢の中に山崎まさよしっぽい声の神様が出てきて、毎日王冠は鉄板だって……やべ……やべえよ!これはサインだよ!!!」


「どんなサインなんすか?」





戸田は面倒くさそうにスマホをポケットにしまいながら、白熱しそうな北村の話を聞くためにラジオを消した。





「まいにち……まいにち……王冠は鉄板の……」


「あれ?なんか……さっきラジオで流れてた曲に似てるっすね」


「俺のお告げをバカにしてんのかてめえ!ラジオの曲なんか関係ねえよ!!!一応教えてやるけどな、肝心なとこは教えてやらねえぞ!」


「なんすかそれ……まあ、別に聞きたくないからいいっすよ」


「ここまで話させておいて止めんなよ!!!頭の一つぐらい下げたら教えてやってもいいんですけど!!!」





その時、突然無線が鳴った。





「はい、こちら五号車……了解。向かいます」





戸田は無線を置くと、後部座席から運転代行のランプを取りだした。





「仕事っすよ。いつもの車屋の社長っす。早く行かないと煩いっすよ」


「わかってんだよ、んなこと……」





戸田がランプを屋根に乗せると、北村はエンジンをかけた。





「とにかくな、俺明日から来ねえから」


「え?なんすか急に?なんかいい仕事でも見つけたんすか?」


「バカかおめえ?明日は毎日王冠だろ?お告げだよお告げ!ドカンと当てて仕事辞めるんだよ!」


「はあ……」


「藤田さんに電話しておくからよ、明日から藤田さんと組んでくれ」


「マジすかそれ?」


「マジだよマジ!空きが出たら連絡くれってこの間電話あったからよ。あの人も結局戻って来るんだよなあ……」


「北村さんも何回も戻って来てるじゃないすか」


「たまたまだよ、たまたま!今度こそ戻って来ねえからな!」


「はあ……そうすか……」





時間は夜の10時を過ぎていた。





「お前と仕事するのも今日が最後だな……」


「で、そのお告げは何が来るって言ってるんすか?」


「しょうがねえな……結局よ、当たりがわかってもデカく張れない奴は大勝ちなんて出来ねえからな……どうせ百円とかしか買わねえんだろ?だったら教えてやるよ」


「だから何なんすか?」


「順番があんだろ?物事には順番がよ!山崎まさよしっぽい声した神様はな、俺の今の境遇を悲しんでたよ……毎日……毎日…王冠は鉄板の……上で焼かれて嫌になっちゃうよ……」


「上って何すか?」


「この代行の車のことだろ!昼は日焼けしてよ、右腕だけ黒くなってよ……今の俺、そのものだ……」


「はあ……」


「で……ある朝、僕は店のおじさんと……喧嘩して海に飛び込んだのさ……」


「店のおじさんって誰すか?」


「うちの社長に決まってんだろ!!!稼ぎが悪いとクビにするぞとか文句だけつけてよ、保険も払わねえうちの社長だ!だから俺は明日社長に言って、仕事を辞めて、人生の大海原へ飛び出すってことだ!」


「人生の大海原って……高校出てからとっくに十年以上経ってるじゃないすか……」


「人生に遅すぎるってことはねえんだよ!!!……で……初めて泳いだ海の底……とっても気持ちがいいもんだ……お腹のアンコが重いけど……海は広いぜ心も軽い」


「お腹のアンコ?」


「脂肪だよ、脂肪!!!もう何年も健康診断受けてねえからよ……きっと溜まりまくってんだ……あのバカ社長のせいで……」


「健康診断関係なく、見ればわかりますよ」


「で……モモ……あっ!!!やべ!!!今、俺、言っちゃった?もしかして聞いちゃった?」


「モモ?」


「うがあああ!!!!聞いちまったか!!!!はあ……まあ、しょうがねえか……これも運命ってやつだ」


「なんすかそれ?モモがどうかしたんすか?」


「バカじゃねえのか、おめえ?桃色だよ桃色!そしたら8枠に決まってんだろうが!」


「桃色が来るって言ったんすか?」


「いや……そこはさすがの神様も直接は言わなかった……きっとな……そこは自分で乗り越えろって、神様は最後の試練を俺に与えたんだ……」


「じゃあ、何て言ったんすか?」


「よく聞けよ……桃色珊瑚が手を振って……僕の泳ぎを眺めていたよ……」


「ちょっと待って下さいよ……」





戸田はスマホを取り出すと、毎日王冠の出馬表を見た。





「8枠はミッキードリームとビックウィークっすね。どっちもないっすよ。全然鉄板じゃないっす」


「だからドリームだよドリーム!!!夢のお告げ!!!しかも俺は明日から大金持ちになるからビックだよ!!!」


「鉄板はどうなるんすか?鉄板ならダークシャドウ買わないと駄目っす」


「鉄板なんかどうだっていいんだよ!!!大事なのは桃色だ!!!結局よ……俺が成功して大海原を泳ぐ姿を眺めるわけだから、当たることは間違いねえんだ……その俺が桃色が答えって思ったんだからな」


「はあ……」





車は指定されたスナックの前に到着する。北村は車から降りると、客の車に乗り込んだ。一人残された戸田は運転席に移り、追走する。





「桃色珊瑚ねえ……あれ?珊瑚だったら3-5ってこともあるんじゃ?」





北村の運転する車は客の家に着く。だが客を下したはずの北村はなかなか戻ってこない。





「何してたんすか?」





ようやく車に戻ってきた北村に戸田が聞く。





「いや、今あの社長と話してたらよ、そういうことはタイミングを逃したら終わりだぞって。人生のチャンスってのは、ここだ!って時に行動しないと後悔することになるって……流石は人生の成功者の言うことは違うよなぁ」


「だから何してたんすか?」


「買ってたんだよ。枠で8のゾロ目だ」





北村はスマホをポケットから取り出した。PATの画面が表示されている。





「全部すか?」


「きまってんだろそんなもん!全部突っ込んだぜ!俺の人生がかかってんだよ!」


「桃色珊瑚っすよね?桃色の人生が3-5で……ってこともあるんじゃないすか?」





北村は突然黙り込む。みるみるうちに顔が青褪めて行った。





「さ、3は……なんだ?」


「ダノンヨーヨーっすね。出遅れはあっても1800mなら持つんじゃないすか?逆に2番人気だった前走の安田を見ると、マイルより長いほうがいいかもしれないっす。久々でも中間の時計はいいみたいっすね。22日には京都大賞典に出るオーケンと併せて先着してるっす。開幕なんでペースが落ちれば前が残る可能性は高いすけど、東京の直線は長いんで、負けた2戦はどっちも出遅れですから、そこが決まれば勝ち負けもありじゃないすか?」


「ご、5は……」


「セイクリッドバレーっすね。今回人気のダークシャドウと前走対戦して3着すけど、直線で前が包まれて、最後は完全に脚を余してたっす。先週は坂路で51.7、終いは11.9でまとめたんで状態は絶好調じゃないすか?前が崩れるような展開ならアリアリっす。逃げるのはシルポートでも、ビックウィークも外から行くんでスローってことはないっすよ。意外とこの頭数でもペースは上がりそうな感じっす」


「は、8枠の二頭は?」


「無いっすね。無理っす」





北村はいきなり車から飛び出した。





「ど、どこ行くんすか?」





結局北村はそのまま戻って来なかった。次の日、いつも通り北村が代行の仕事についたのは言うまでもない。