仁はまず自分の要求として
離婚とそれに伴う財産分与、特に自宅の名義変更を雪枝に求めた。
有責配偶者からの離婚は認められにくい。
散々離婚に関する法律本を読み漁っていた仁は
自分が有責配偶者とならぬよう雪枝とのセックスレスを婚姻破綻事由とした。
その結果、石坂千代という愛人が出来たという嘘をでっち上げ
愛人は離婚の原因ではなく、夫婦破綻の結果によるものだという事を主張した。
夫婦和合を求めて自分は努力を尽くしたが
雪枝はセックスで快楽を得ることに罪悪感を感じるようで
新婚当初からそのことをめぐっていさかいが耐えなかった、と仁が述べたのに対し
できうる限り仁の要望に応えようとこちらも努力した
疲れていて断ろうとしても暴力によって強要されたこともある、そう雪枝は対抗する。
千代との愛人関係について仁は、カオリが大学に通い始めた頃と言い通し
一方で雪枝はALIを仁の隠し子だと思っていると調書に書くなど
両者間で不倫の期間は大幅に食い違った。
最終的に雪枝は自宅を自分名義にして
会社の全ての保証契約を解除し、担保を抹消するなど
老後が安心して暮らせることだけわかれば離婚に応じてもよいとまで譲歩したが
仁は保証契約の解除は、今後会社の借入れが困難になり倒産の危険性があるので
なおさら担保となり得る自宅は譲れないと拒否。
実際のところ、計画倒産を視野に置いていた仁が自宅を欲しがったのは
会社の担保というよりは倒産時の自分の保険という理由が大きかっただろうと推測する。
両者の主張は解決策を見出せぬまま
回数にして8回、期間にして9ケ月に及ぶ調停は見込みがないとし、不調に終わった。
調停不調の3ケ月後
仁は雪枝に対し、離婚訴訟を起こす。
その趣旨は、調停を起こした当初と変わらず雪枝との離婚と自宅の所有権についてのみで
不倫に関する慰謝料その他についてはいっさい触れられていなかった。
その理由として
雪枝の新婚当初からの性における無理解な態度
異常な性交渉拒否と冷酷とも言うべき侮辱的言辞が破綻の原因で
千代との愛人関係は夫婦関係破綻後に生じたものであり離婚の障害にはならない。
財産分与を求めることについては
各自固有名義となっている資産は、会社経営利益によって得たものであり
所有名義はそのときどきの経済状態に応じて節税のために雪枝名義にしたものであるから
雪枝名義の資産であっても本当は自分にも半分権利があるということ。
それは要求しないでやるから
共有名義の自宅だけは自分に渡すようにという懐の深さまで主張する始末。
千代との出会いは、自分の経営していた会社のビデオ店の店長として知り合い
経営の相談にのっていただけとし、出会いから不倫関係になるまでに相当の期間があったと釈明。
全ては雪枝の勘違いであり、以前から自分の性欲に軽蔑の念を抱いていた雪枝が
これぞいい機会とばかりに家庭内別居を目論んだのではないか、と雪枝を悪者に仕立て上げた。
不倫関係は、夫婦の家庭内別居が始まった頃から始まったもので
それまでは自分は夫婦和合に努めたと訴えている。
夫婦が別居する最大の理由となった千代のジャケット事件についても
家庭内別居が長く、自分の部屋の掃除を頼んだだけ
それも勝手に雪枝が自宅に連れ込んだと勘違いし、
ことさらに激怒し、家を出て行けと連日執拗に嫌がらせを受けたことになっている。
この訴状に対して、雪枝の弁護士から答弁書が届く。
それを目にした仁は、妻のある企みを知り愕然とした。