四つ活人形

両腕とともに両足も別に作られ、胴体を通して針金やゴムで繫がれているので両腕両足共にクルクルと動くタイプの人形です。輸出商の森村ブラザーズ(後のノリタケ)のラングヘルダーが、見本として初めて瀬戸に四つ活人形を持ち込んだのは大正5年(1916年)の事です。

 

見本用にドイツのビスク人形が初めて日本に到着したのが大正2年(1913年)で、大正3年に製造が始まります。丸山陶器の初代社長【山城柳平】はこの当時、丸カ商店の番頭でビスク人形の制作に尽力しました。

 

森村ブラザーズのラングヘルダーが四つ活人形を瀬戸に持ち込んだ大正5年には、すでに山城柳平氏は大正3年(1914年)7月に丸カ商店を辞し、独立して山城柳平商店を立ち上げていました。初めて見る四つ活人形に衝撃を受けた山城氏は研究に奮起して、最初の四つ活人形を制作します。

 

 

 

さて、ペニードールや手活人形同様、四つ活人形にも背面の国名刻印に二種類が見られます。【NIPPON】 と【JAPAN】または【MADE IN JAPAN】の英語表記です。

 

1891年、アメリカのマッキンレー法の施行で、輸入製品に原産国の表示が義務付けられました。そこで輸出品には【NIPPON】と表記されるようになります。

 

ところが1918年、【NIPPON】ではわかりづらく、【JAPAN】とするようアメリカの商務省からの通達を受けます。日本では3年後の1921年10月1日より【JAPAN】または【MADE IN JAPAN】の表記となります。

 

アメリカで出版された【NIPPON】ドールの本には、1921年3月1日にアメリカ政府から【JAPAN】とするように要請されたとあります。同じ年の10月に表記されていますので、3年の猶予があったと考えても良いのかもしれません。いずれにしろこの事は、現在里帰りした人形の作られた時代を考える大きな手掛かりと言えます。

 

 

 

それぞれの顔つきを見ると時代によって変化している様子が垣間見えます。【NIPPON】 表記の頃は日本人形のようなおとなしい顔が多く見られます。【MADE IN JAPAN】 の表記の時代には表情が豊かになります。

 

もともと日本人形は現実と離れた世界で無表情が多く、海外では表情が豊かでした。そのためでしょうか、初期の頃は無表情な貴族顔が描かれたのかも知れません。その後ドイツで流行ったグーグリーアイなどの表情豊かな顔に変化したのでしょう。瀬戸物食器の町瀬戸では人形の顔を描く歴史が無く苦労したようです。

 

 

 

この時代の輸出用四つ活人形と言うと、大きなサイズで豪華な衣装を着たコンポジションドール、森村ブラザーズの作った森村ドールが有名です。青い目の人形として日米親善にも利用されたりもした豪華なドールです。こちらはそのミニサイズ版のように感じますが、輸出されていたのはいつごろまでだったのでしょうか。

 

 

森村ブラザーズは1921年頃に雑貨部を廃止しますので、森村ブラザーズの人形は姿を消します。しかし、他のメーカーではこちらのような人形が1921年以降の【JAPAN】の刻印の時代も盛んに作られています。

 

1921年頃には【森村ブラザース】では雑貨部を廃止して陶磁器専門業者になりますので、人形の製造が止まります。その後、雑貨部の三人が独立して【LHH商会】を立ち上げます。

 

【LHH商会】の輸出ドールには、高い技術力の≪白土博雲≫が原型を作り、【山城柳平商店】が販売をするルートが出来ていたようです。マルヤママークの刻印の見られる中で、精巧な造りのいくつかは≪白土博雲≫が原型を用意しているのではないかと思います。≪白土博雲≫は、のちに瀬戸で【博雲陶器】を設立します。

 

 

 

詳しいことは不明ですが、手活人形、四つ活人形の最盛期は【NIPPON】の作られた大正4年(1915年)から、【JAPAN】が作られた大正10年(1921年)を経て、昭和4年(1929年)迄ではないかと考えられます。1929年の世界恐慌により、アメリカ向けの輸出は止まってしまいます。

 

昭和7年に輸出が再開されますが当初は僅かだったと予想できます。丁度この時代は、国内では射的人形が盛んな時代を迎えます。3寸から6寸程度の、焼成後に彩色された小ぶりな子供たちの人形です。

 

国内では、3寸程度のサイズは射的人形と呼ばれる子供のモデルが数多く作られていました。輸出用を見ても、輸出先のアメリカでペニードールと呼ばれる人形には子供のモデルが多く、国内用とよく似ています。

 

輸出人形もこの頃はペニードールが多かったのかもしれません。ペニードールとは、焼成後に彩色されている射的人形とほとんど同じ造りの人形で、違いは【MADE IN JAPAN】の刻印が見られる事程度でしょうか。ペニードールとは、小さくて安価な事からアメリカで呼ばれた名前です。

 

また昭和8年頃からはドレスデン人形の研究が始まり、昭和10年には本格的に輸出されています。その後ハンメル人形も輸出されるようになりますので、世界恐慌前の大正時代に人気のあった手活人形、四つ活人形はかなり少なくなっていたと思われます。アメリカの流行も、恐慌前とは変化したのかもしれません。

 

 

こちらでは、大正時代に輸出されていた【四つ活人形】のうち、大正5年(1916年)から

大正10年(1921年)に輸出されていた【NIPPON】の刻印の人形をご紹介します。

 

 

 

 

                  【NIPPON】表記

                1916年~1921年まで

 

 

                    表記の一例

 

      ル大文字で【NIPPON】の表示や、小文字で【nippon】と表示されています。

 

 

 

 

 

 

 

                      少年

どうも絹のようなシャツブラウスにビロードのスーツを着けています。アメリカで着せられたのでしょうが、随分と豪華な衣装です。ただしドレスを着ければ少女と言う事になります。アメリカで発刊された【NIPPONドール】の本には、ドレス姿の少女として掲載されています。

 

            ワイヤージョイント

             高さ 17センチ

   少年とするか、少女とするかは、アメリカで購入した持ち主が決めていた事でしょう。

 

 

 

 

 

                      少女

淡い紫のワンピースの下にはドロワーズも着けています。ワンピースに縫い付けて一体となっています。アメリカで発刊された【NIPPONドール】の本では、ズボン姿の少年として掲載されています。

 

             ワイヤージョイント

             高さ 17センチ

   少年とするか、少女とするかは、アメリカで購入した持ち主が決めていた事でしょう。

 

 

 

 

                    ギリシャ風    

顔つきがギリシャ風で、西洋的な感じの巻毛の少年です。同じ顔でサイズが二種類ありますので並べます。見るからに少年のような顔ですが、ドレスを着ければ少女と言う事になります。アメリカで出版された【NIPPON】 ドールの本にはドレス姿の少女が写っています。

 

                  ワイヤージョイント

     

      高さ 14.1センチ              高さ 17.5センチ

 

                 どちらもよく似た刻印です。  

    少年とするか、少女とするかは、アメリカで購入した持ち主が決めていた事でしょう。

 

 

 

 

                   青い髪飾りの少女

13.7センチと大きなサイズです。背面は【NIPPON】の刻印だけでメーカーは不明です。青い手編み風のドレスを着けていますが、これは1960年代頃にアメリカで市販されていたドレスと言う事です。

                   ワイヤージョイント

                 高さ 13.7センチ

 

 

                   小ぶりな少女

当時アメリカで流行していた、クレープ紙のパンツを着けています。アメリカで以前の持ち主が用意したようです。1920年代~1930年代頃、クレープ紙のドレスがアメリカの女性の間で流行していたそうです。

                   ワイヤージョイント

                                

                 高さ 10.3センチ

 

 

 

 

                    ベビードール

 

どちらも【NIPPON】の刻印だけでメーカーマークはありません。左は多分山城柳平商店ではないかと想像しています。右の哺乳瓶を持つベビーは、アメリカで出版されたNIPPONドールの本で、森村ブラザーズの箱入りによく似た姿を拝見しています。森村ブラザーズとも思えるのですが、輸出ビスクドールでは色々な人形に他社による模倣があるようなので、タグやシールがないと正確なところは分かりません。

 

                   ゴムジョイント     服を着たタイプ

     

      高さ 11.8センチ             高さ 9.8センチ

 

 

 

 

                   服を着たタイプ

 

上の右側のベビーのように、裸ではなく服を着た形で作られています。少年も少女も存在し、肌着から水着、洋服姿までいろいろなタイプの服を着けた姿が、数多く見られます。

 

                  ワイヤージョイント

                 高さ 12.8センチ

 

 

 

 

              モヘアウィッグタイプ 【NIPPON】

 

モヘアの鬘をつけたタイプです。大きなサイズではモリムラドールに良く見られますが、こちらのように小さなサイズでも、数多くの種類が色々と作られています。サイズは3寸から5寸程度でしょうか。

 

(こちらの髪の毛は据え付けですが、当時は大型の鬘だけを専門に販売もしていたようで、その鬘は

 モリムラ ドールに合わせて多く作られていたようです。イメージチェンジ用でしょうか。)

 

                  ワイヤージョイント

                  高さ 12センチ

 

 

 

 

                 ビスクヘッド・ドール

               【首だけがビスクで動くタイプ】 

森村ドールや市松人形のように首が別に作られたタイプも見られます。これは首はビスクですが、体はコンポジションで作られています。【NIPPON】 の刻印は、ビスク製の首の後ろにあります。手足や胴体もビスク製の、オールビスクドールも存在するようです。

 

また、首が胸まであり、手足の先がビスクあるいは磁器製で作られていて、胴体が布製で詰め物をされた【チャイナヘッドドール】も数多く見られます。

           

                   ゴムジョイント

                 高さ 15.1センチ