大正時代から昭和にかけて輸出されていた陶磁器人形をご紹介していますが、今回は主にアメリカに向けて輸出されていた中から《ペニードール》と呼ばれる磁器人形をご紹介します。
日本でアメリカ向けの輸出用ビスク人形が作られ始めたのは1914年ごろの事です。輸出商の森村ブラザーズ(現ノリタケ)が、アメリカで人気のビスクドールを瀬戸で作らせるために、海外の人形を持ち込んだことが最初です。それはビスクで作られた裸形のベビー人形だったようです。
瀬戸の丸カ商店が嚆矢で、当時番頭だった《山城柳平氏》を中心に、海外製を参考にメーカーが独自に研究して試作を重ね、1915年頃には本格的に輸出が進められていたようです。
今回ご紹介する姿は、多くが国内に見られる3寸程度の射的人形と呼ばれる子供たちと同じ姿をしています。射的人形は、焼成後に手彩色された人形です。姿はほとんど一緒ですが大きな違いは、輸出品には国名の刻印や印字が見られる事です。
1891年、アメリカのマッキンレー法の施行で、輸入製品に原産国の表示が義務付けられました。そこで輸出品には【NIPPON】と表記されるようになります。
ところが1918年、【NIPPON】ではわかりづらく、【JAPAN】とするようアメリカの商務省からの通達を受けます。日本では3年後の1921年10月1日より【JAPAN】または【MADE IN JAPAN】の表記となります。
アメリカで出版された【NIPPONドール】の本には、1921年3月1日にアメリカ政府から【APAN】とするように要請されたとあります。同じ年の10月に表記されていますので、3年の猶予があったと考えても良いのかもしれません。いずれにしろこの事は、現在里帰りした人形の作られた時代を考える大きな手掛かりと言えます。
素材を見るとビスク製あり、磁器製あり、コンポジションありと賑やかです。初期の【NIPPON】 表記の時代にはビスク製が多く見られます。オールビスクドールと呼ばれ、ペニードールとは区別されています。
OJ倶楽部様よりご教示いただきましたが、【JAPAN】表記の時代に見られる焼成後にペイントされた小さな姿は、アメリカではペニードールと呼ばれているようなのでこちらでもその名称を踏襲します。ざらざらとした手触りはストーンビスクとも呼ばれるようです。
ペニードールはその名の通り安価だったようですが、オールビスクドールは若干高価だった模様です。ビスクと違いペニードールは焼成後に彩色されていて、幾つかにペイントロスが見られます。
昭和4年(1929年)の世界恐慌でアメリカ向け輸出は一時滞ります。昭和7年(1932年)から輸出は再開されるようです。この時代以降にペニードールが多く輸出されたのかもしれません。
丁度この時代は、国内では大衆人形が盛んな時代を迎えています。焼成後に彩色された磁器人形です。射的人形と呼ばれる歌舞伎などの風俗がモデルの人形です。
その仲間には、小ぶりな子供たちが多く見られます。国内用で、背面に【MADE IN JAPAN】の刻印や印字が見られない、ペニードールと良く似た人形です。
違いは背面や底面に見られる【JAPAN】【MADE IN JAPAN】の刻印があるか無いかの違い程度です。もう一点、ペニードールは射的人形より造りが細部まで丁寧です。髪の毛も栗色で巻き毛の子供たちが多く見られます。
ペニードールは輸出品ですが刻印のある全てが輸出品かと言うと、その辺りははっきり分かりません。現在アンティークショップに並ぶものは業者さんの手による里帰り品でしょうが、大衆人形とよく似ていますので、輸出品の在庫を国内流通に回していた事は考えられると思います。
国内で見られる幾つかは【MADE IN JAPAN】【JAPAN】の刻印が見られるものも僅かにあるようで、射的人形として射的場に並んでいたり市販されていたと考えても良いのかもしれません。
焼成後に手彩色された、国内の射的人形と良く似た磁器人形です。僅かにビスク製も見られます。
5体セットの箱入りです。里帰りが多い中、これは国内で入手しました。輸出品を国内流通に回したのか、あるいはデッドストックでしょうか。
高さ 7.2センチ前後
背面にはMADE IN JAPANの押刻が見られます。
箱の裏面には(GRADE A) JISZ500lと印刷されたシールが貼付されています。
中国の少女
カウボーイスタイルの少年少女
インディアンの少年少女
結婚式
3体セットになっている事が分かっています。モーニングの少年、ウェディングドレスの少女と神父さんの3体がセットになった箱入りを拝見しました。ここには花嫁さんはいません。
モーニング(燕尾服)の少年
背面に【MADE IN JAPAN】の押刻があります。
この少年は新郎です。彩色違いを並べました。
神父さん
背面に【MADE IN JAPAN】の押刻があります。
高さ 10.6センチ
こちらが同じセットの神父さんです。
小ぶりな新郎新婦
一回り小さなサイズでは新郎新婦が二人の箱入りがあります。サイズから見るとウェディングケーキのケーキトッパーではないかと思います。
80年以上の時間が経過しています。結婚式で一度だけ使われて、その後は箱に入れたまま大切に
保管されていたのかもしれません。
グーグリーアイの少年少女
S/314 MADE IN JAPANの刻印
高さ 12.5センチ
/22 MADE IN JAPAN C3/3 MADE IN JAPAN
高さ 10.3センチ 高さ 12.7センチ
シルクハットにステッキ、左手には エプロン姿です。左手には買い物か
花束を抱えたおしゃれな少年です。 ごでしょうか。
この二体は顔がよく似ていて同じメーカーかも知れません。丁寧な造りと顔の感じから、どうも丸山陶器の前身である(山城柳平商店)、あるいは【昌】のような気がします。
巻毛の少年
背面にMADE IN JAPAN C59 背面にMADE IN JAPAN C324
高さ 8センチ 高さ 8.7センチ
底面にJAPANの印字もあります。
おしゃれなワンピースの少女 帽子を持つ少年
MADE IN JAPAN CO P8 MADE IN JAPAN A80
高さ 8.8センチ 高さ 10.1センチ
白地に赤い花柄の上品なワンピースを カウボーイの姿をした巻毛の
着けています。帽子もアンサンブルで 少年です。右手に帽子を持っていて
しょうか。右手にはポーチを持ち、 なかなかおしゃれです。
青いバックを肩からかけています。
犬を抱えた少女
背面にJAPANの刻印
高さ 9.1センチ
髪や顔、手足はビスクですが、ヘアーバンド、ワンピース、犬、靴は彩色してから焼成しています。
エプロン姿の少女 ナポレオンの帽子の少年
子犬を抱えた少女
10.3センチ
本を持つ少年 人形を抱えた少女
MADE IN JAPAN アの押刻
高さ 8.6センチ
本を持っています 子犬を抱えた少女です。
ビスク製
MADE IN JAPAN
焼成前にドレスは彩色されている よく似ていますが、彩色は焼成後です。
ようです。
シェルフシッター
棚などに腰掛けるタイプの少年少女
本を読む二人 少女
高さ 8.7センチ 高さ 7.8センチ
棚などに腰掛ける、このようなタイプをシェルフシッターと呼ぶのだそうです。
MADE IN JAPAN
巻き毛で洋風な雰囲気の少女です。
底面にJAPANの印字
高さ 8.8センチ 高さ 7.7センチ
昭和9年に公開されたキャサリンヘプバーン主演 髪の毛は黄色ですが、おかっぱに切
の映画【若草物語】が題材なのかも知れません。 り揃えていて日本人だと分かります。
黒い背広の少年 黒いマントの少女
人形を抱える少女 冬の少年
MADE IN JAPAN
アメリカには⦅オキュパイドジャパン⦆のコレクターは多いようですが《ペニードール》もまた人気が高いようで、数多くが流通しているようです。日本では里帰り品程度しか見られません。