「彼女のための歩道橋」

あるグループが心霊スポットに肝試しに行った帰りのこと。

時刻は真夜中、彼らは小さな歩道橋を見つけました。
「なんか感じる…」肝試しでは何事もなく、少し拍子抜けしていた彼ら、少し霊感のあるメンバーのその一言で、歩道橋を見に行くことにしました。

しかし、歩道橋まで来るとすぐにその彼が叫びました。
「やばい、引き返すぞ!」
メンバーは訳も分からず、彼について引き返しました。
「小っちゃい女の子がさ、俺たちのほうに向かってきてた…」
そう言って青ざめる彼に、ほかのメンバーも震え上がりました。

怖くなったメンバーは次の日すぐ、お寺へ駆け込みました。
事情を説明すると、軽率な行動をこっぴどく叱られた後、歩道橋についてこんな話をしてくれました。

歩道橋のある場所は、子供たちの通学路なんだそうです。
その女の子もそこを通学路にしている一人でした。
ある時、彼女は小学校の演劇で『女王』様の役を射止めました。
主役ではないけれど、とてもとても重要な役です。彼女はそれは熱心に女王の役を練習していました。教室でも家でも、学校の行きかえりでも。

そして、台本を読みながらの帰り道、
彼女は事故に遭ってしまいました。

もともと、その道は見通しが悪く危険だと言われていました。
もう二度と痛ましい事故がないよう、子供たちの『安全』のために建てられたのが、あの歩道橋だったのです。

ご住職に諭され、メンバーは花を持って再び歩道橋に行きました。もちろん昼間です。彼らはしっかりと手を合わせ、先日の冷やかしの非礼を詫びました。

よく見ると歩道橋の壁面には、ご住職に聞いた事故の話がきちんと記されていました。何となしに皆それを読んでいると突然「あっ」とメンバーの一人が声をあげました。

彼はその文の最後のあたりを無言で指さします。

「なんだよ?何か変か?」
「よく、見て。安全ってとこ…」
他のメンバーも注意深く石碑を見つめました。すると。

古さの為でしょうか?

『安全』という二文字から、『うかんむり』と
『ひとかんむり』だけが消えていたのです。