春の雨 | 続・阿蘇の国のアリス
...またやせたね。

でも毛はあいかわらずきれいだ。

目だってかわいい。

さて、
これからどうしよう...。

どうしようかね、アリス?

ぼくにどうしてほしい?

ごめんね、
アリスの声がだんだん
聞こえなくなってきたよ。

苦しい?

「...ねぇ、
歩く練習をさせる?
やっぱり先生が言うように、
無理はさせない方がいいよね。
でも、このままだと、
どんどん弱っちゃうし...」

不意に
彼女が声をかけてきました。

ぼくは叱ってしまいました。

「ママはだまっといて。
今、アリスとふたりで
会話しているところだから。
じゃまをしないで」

アリスの声は
ぼくにしか聞こえない。

1対1じゃないと、
アリスの声は聞けない。

それは真剣勝負で、
そこには、
誰も入る余地なんてない。

そうしないと、
アリスを救えないんだ。

そのとき、
動けないはずのアリスが、
歯をくいしばり、
必死に頭を起こしました。

「私のことでけんかしないで」

アリスは
二人を交互に見つめながら、
確かにそう言いました。

これまでしてきた、
困った目つきで。

「けんかしてないよ。
二人でどっちが
アリスを愛しているか、
競争しているんだよ」

「...あのときもそうだった。
病院に向かう車のなかで
ウンチしたとき。

あのとき、
アリスはごめんなさいって、
私に言ったもん。

ぜんぜん
ごめんなさいじゃないのに。

私にだって
アリスの声が聞こえるもん」

そう、
アリスはいつだって
やさしかった。

今降っている、雨のように。

「さぁ、そろそろ出ようか、
世界地図を描いて」