夜明け前 | 続・阿蘇の国のアリス
桜の木の下、
私の足の力は残っていなかった。


パパがドアを開けているあいだに、
ずるずると座りこんでしまう。

パパは死体でも運ぶように
私の両脇に手をかけて、
身体を抱き上げた。


外のトイレを終えたあとで、
パパと抱きあう時間が好きだった。

パパの胸に耳をあてて、
心臓の鼓動をきく。

同じ心臓と同じ手足。

目だって鼻だって口だって、
たいした違いはない。

そのわずかな違いに感謝して、
私はパパの胸の中央にキスをした。


夜明け前、
私が幸せだったのはまちがいない。