夜明け前桜の木の下、私の足の力は残っていなかった。パパがドアを開けているあいだに、ずるずると座りこんでしまう。パパは死体でも運ぶように私の両脇に手をかけて、身体を抱き上げた。外のトイレを終えたあとで、パパと抱きあう時間が好きだった。パパの胸に耳をあてて、心臓の鼓動をきく。同じ心臓と同じ手足。目だって鼻だって口だって、たいした違いはない。そのわずかな違いに感謝して、私はパパの胸の中央にキスをした。夜明け前、私が幸せだったのはまちがいない。