アリス石 | 続・阿蘇の国のアリス
私の体が弱ると
パパは決まって
私が大好きだった場所に
連れて行ってくれます。


その日の同行は
釣りキチ店長とぶたモンでした。


おうちから車で一時間行くと、
めざす「青葉の瀬」です。


この川がいいのは
ヤマメがたくさん
泳いでいることで、
農薬や家庭の雑排水が
全くはいっていません。


もっといいのは、
この川の流域には
人がほとんどいないことです。


「今週末、ジュジュくんと
ここに来ようか?」




「ヤマメの背ごしとか、
シカの天ぷらとか、
だいじょうぶかな?」


「さあ、アリス。元気を出して泳ごうか」


私は毛むくじゃらなので
暑くて仕方ありませんでした。


パパに水につけてもらって
やっと犬心地を取り戻しました。


「ママ、楽しいよ!」「よかったね♪」


パパは水中メガネをつけて
大岩の下を覗いています。


「ヤマメがいた」


釣りキチ店長はルアー釣りをしています。


「ヤマメが釣れた」


魚体が明るく白っぽいのは
白砂の川底のせいです。


その白砂の川底に
ぶたモンが足をとられたのは、
釣りキチ店長を背負って
移動している時でした。


その際、
ぶたモンの片方のサンダルが
勢いよく流されてしまいました。


「ワッハハハ!」


みんなは大笑いしました。


ママが言うには、
こんなに笑ったのは
がんになって初めてだそうです。














わたしたちを殺さないものは、
わたしたちを強くする。


脳腫瘍はまだ
私を殺してはいませんでした。


私の心は、この衝撃に耐えて
強くされたのでしょう。


みんなで川原を
歩いて帰っていた時、
パパが私に似た石を見つけました。


パパは流されないようにと、
それを大岩の上に置きました。

ハート形の石と一緒に...。


その石は、
「アリス石」と名づけられました。