清栄山の思い出 | 続・阿蘇の国のアリス
それでも、パパとママは
弱り切った私を連れて
阿蘇山の隣の山
「清栄山」へと向かいました。

最後の時まで、
私を私らしく生かせようと
しているのかもしれません。


行くとき、
ママはずっと私の手を
握っていました。

そうは言っても、心配しているのです。


「その手、離さないでね」


清栄山は私が元気だった頃、
よく遊んでいた思い出の山です。


「アリスちゃん、ずいぶん久しぶりだね」


この坂道(3km)を、
毎日のように
下から上まで走って登っていました。


パパは車を運転しながら、
ある日の出来事を語り始めていました。

「アリス、おぼえているかい。
おまえがキツネを追いかけて
山奥まで入った日のことを...」


「あの日、午前1時頃。
ぼくたち三人は流れ星を見ようと、
この場所まで来たんだ...」


「すると突然、
行く手にキツネが現れたものだから、
おまえが追いかけて行っちゃって...」


「あの大きな岩のあたりで
ワン、ワン鳴き始めたんだ。
てっきりキツネを追い込んだのかな...
と、思っていたら、
ほんとうは降りて来られなくなって
鳴いていたんだよね」


「いつまでも
不安そうに鳴いているから、
ぼくはいてもたってもいられず、
崖を登って探しに行ったんだ。
アリスの前には
大きな木が倒れていて、
それが邪魔して降りて
来られなかったんだよね」


「アリスを抱えて
ようやく車に戻ってきた時には
午前4時を過ぎていて、
へとへとになってしまっていた。
ママは心配するし、
途中、眼鏡も落としちゃうし、
ぼくの方こそ泣きたかったよ」


「テヘッ♪おぼえてる」


「あの時わかったんだ。
自分がどれだけ
アリスを愛してるかって」


「だから、こんな山道だって」


「おまえのためだったら」


「ただし、山頂まではかんべんな」


「今日は楽しかったかい。
明日は川に行こうね」




「二人共、無事にお帰り」