お年玉の思い出 | 続・阿蘇の国のアリス
小学生の頃、
父が親戚と喧嘩をしていたせいか、
ぼくのお年玉は、よくて三千円でした。

小学六年生の正月。
ついにぼくは、
父親に文句を言いました。

「なぜ、他の友だちは
何万円ももらっているのに、
ぼくは三千円なの。
ましてや、
親がお年玉をくれないなんて、
聞いたことがない」

父は何も言い返さず、
その日の夜を迎えました。

ぼくが布団で休んでいる時、
父が近づいてきていいました。

「ごめんね...はい、お年玉」

その時、ぼくは、
本当はひどく後悔していました。
その頃、母が家を捨てていて、
父親ひとりで懸命に
四人の子供を育てていたからです。

「僕の方こそ、ごめん...言い過ぎた」

「あけましておめでとう」

父は小さく言うと、
ぼくの手にお年玉袋を握らせました。
それは、ぼくが初めて手にした
一万円でした。

すまなさと、
うれしさがこみあげてきて、
いつまでも眠れなかったのを
今でも思い出します。

父からもらったお年玉は、
それが、最初で最後でした。
翌年からぼくは新聞配達を始め、
父にお年玉をあげるようになりました。

父はちょっぴりはずかしそうに、
でも、うれしそうに、
受け取ってくれました。

父からもらった
あの時のお年玉の使い道を
ようやく思い出しました。
ぼくはそれで、釣竿を買ったのです。

ふりかえると、
それが、ぼくの旅の始まり
だったような気がします。
その竿を持って
大分や熊本の川を次から次へと、
釣り歩くようになったのです。

先程、彼女の母親から電話がありました。

「お年玉は年内から受け付けていますよ」

だそうです。