不思議です...
旅に出るたびに、
わたしも、そしてママも、
元気になってゆきました。
きょうは、
車の窓から身を乗り出して、
「長湯温泉」までいきました。
風になびく
わたしの尻尾の毛が、
ママの口に入りましたが、
ママは決して叱りませんでした。
「アリス、いいかげんにしなさい!」
温泉の前に、「権現山」に登りました。
夕暮れが迫っていて、
サギの編隊が
目の前をよこぎってゆきます。
湿った大気が、ゆるく、あたたかい...
こんな日は、ホタル日和です。
近くの芹川にいってみましょう。
まだ、時間が早かったようです。
「御前湯」の前で、
宮崎県から引っ越してきた
男性と出合いました。
男性は、
田舎で大型犬を飼うのが
夢だったそうです。
「ラン、5歳です。人が大好き」
別れ間際、
男性が大声で叫びました。
「金はある。時間もある。体力がない!」
「ランちゃん、また会おうね!」
夜になり、星が出ました。
「ほう、ほう、ほたるこい♪
あっちのみずはにがいぞ♪
こっちのみずはあまいぞ~♪」
ママが川にむかって歌い始めると、
ホタルが川から上がってきました。
「1匹、2匹、3匹...
10匹は飛んでる!」
ママはうれしそうに数えました。
やがて、
そのうちの何匹かが、
ふわりと舞い上がり、
星と重なり合いました。
同時にホタルの姿は
消えてなくなりました。
それを見ていたパパは呟きました。
「たった今、ホタルが星になったね」