ふむふむほう。
これが噂の手相なるものか。
見れば見るほど面妖なり。
娘さん、小生に手相を見せてくれてどうもありがとう。
※
かねてより巷間を賑わす、手相なるものがあった。
初めて、その光景を目にしたのはたまたま通りかかった、とある辻でのことである。
ぢっと見つめる者の悦に入ったようななんともいえぬ表情と、見られる者の、不安げでいてどこかもの欲しげな態度が周囲に摩訶不思議な高揚を与えたのを覚えている。
以来、並ならぬ関心を持った。
かくも人心を惑わす手相なるものの、一体全体、正体はいかなるものなのか、一度確かめたいと思い、思い長じて先ほどの娘さんに声をかけた次第である。
娘さん、手相を見せてくれないか、と。
ひとしきり眺めながら、ふんふん悦に浸っておると、娘さんはなにやらじれた様子の後、いかがでございますか?と問う。
恥ずかしながら小生、手相なるものを見るのはこれが初めてで、これが他の手相と比べていかがなものかは皆目検討がつかないのです。
正直に答えると、娘さんはたいそういぶかしみ、とっととどこかへ行ってしまわれた。
しまった。
何か作法があったのか。
せっかく好意で差し出された手相であったのに、恩を仇で返すとは正にこのこと。
結構なおてまえで、とでも言えば良かったのかもしれない。
申し訳なさと、己を恥じる気持ちが瞬時に湧いたが、生来お気楽な気質のためそれもつかの間のことだった。
娘さん、小生に手相を見せてくれてどうもありがとう。
さて、どうやら手相とは茶の道のようなものであるらしい。
見る者と見られる者の、真剣な儀式。
作法に則り、礼を尽くすことで独特の高揚をもたらす。
検討違いな思慮深さもまた生来のものである。
なるほど、人の世の習いは時としてまったく理解しがたいものであるが、これもそういう類のものだろう。
理に適うかどうかはさほど問題でなく、これはこういうものなのだ。
通常は観覧者が支払う見料を、何故か見せてくれた者が支払うという異様な習いとて、きっと一種のわびさびというやつなのである。
小生が手相を見る者として大成し、手相長者となる日も、あながち遠い先のことではない。
これが噂の手相なるものか。
見れば見るほど面妖なり。
娘さん、小生に手相を見せてくれてどうもありがとう。
※
かねてより巷間を賑わす、手相なるものがあった。
初めて、その光景を目にしたのはたまたま通りかかった、とある辻でのことである。
ぢっと見つめる者の悦に入ったようななんともいえぬ表情と、見られる者の、不安げでいてどこかもの欲しげな態度が周囲に摩訶不思議な高揚を与えたのを覚えている。
以来、並ならぬ関心を持った。
かくも人心を惑わす手相なるものの、一体全体、正体はいかなるものなのか、一度確かめたいと思い、思い長じて先ほどの娘さんに声をかけた次第である。
娘さん、手相を見せてくれないか、と。
ひとしきり眺めながら、ふんふん悦に浸っておると、娘さんはなにやらじれた様子の後、いかがでございますか?と問う。
恥ずかしながら小生、手相なるものを見るのはこれが初めてで、これが他の手相と比べていかがなものかは皆目検討がつかないのです。
正直に答えると、娘さんはたいそういぶかしみ、とっととどこかへ行ってしまわれた。
しまった。
何か作法があったのか。
せっかく好意で差し出された手相であったのに、恩を仇で返すとは正にこのこと。
結構なおてまえで、とでも言えば良かったのかもしれない。
申し訳なさと、己を恥じる気持ちが瞬時に湧いたが、生来お気楽な気質のためそれもつかの間のことだった。
娘さん、小生に手相を見せてくれてどうもありがとう。
さて、どうやら手相とは茶の道のようなものであるらしい。
見る者と見られる者の、真剣な儀式。
作法に則り、礼を尽くすことで独特の高揚をもたらす。
検討違いな思慮深さもまた生来のものである。
なるほど、人の世の習いは時としてまったく理解しがたいものであるが、これもそういう類のものだろう。
理に適うかどうかはさほど問題でなく、これはこういうものなのだ。
通常は観覧者が支払う見料を、何故か見せてくれた者が支払うという異様な習いとて、きっと一種のわびさびというやつなのである。
小生が手相を見る者として大成し、手相長者となる日も、あながち遠い先のことではない。