DCコミックのキャラクターたちをユニバースとして描いたDCエクステンデッド・ユニバースの完結作『アクアマン/失われた王国』はもうご覧になったでしょうか?
単体の作品としては良き娯楽作品だと私は思います。
しかし、ユニバース全体の完結作として見ればあれで良いのか?と疑問に思います。
どちらかというとアクアマンの2作目にして完結作というべきで、これでは最初からユニバースで展開せず、単体の作品として製作するべきでした。
そもそもこのDCエクステンデッド・ユニバース(以下DCEU)は、マーベルコミックのユニバースを描いたMCUのようにはうまくいかなかったようです。
途中から製作者サイドがキャラクターどうしのクロスオーバーで展開させていくことに諦めムードでした。
『ワンダーウーマン』の公開後、ユニバースの描写よりも1作品ごとの質を重視するというDCコミックス社の方針転換があったようです。
私は全体的にはマーベルよりDCのキャラクターの方が好きで、MCUに関してはスパイダーマン意外の作品にはあまり思い入れがありません。
むしろDCEUの方に好きな作品がいくつかあるので、終わってしまったのは残念です。
とりわけザック・スナイダーが監督した3作品は傑作だと私は思います。
今回はそんなザック・スナイダー監督によるDCEUの3作品の魅力について語りたいと思います。
☆スーパーマンがめちゃカッコいい!
DCEUのシリーズ1作目はこちら、スーパーマンを主人公とした作品『マン・オブ・スティール』です。
『マン・オブ・スティール』
そしてここで描写されるスーパーマンがカッコ良すぎるんですよ。
スーパーマンの映画は過去にたくさん作られていて、アメコミに詳しくない人でもスーパーマンの名前を知らない人はほとんどいないのではないでしょうか。
数あるアメコミ作品の中でも超有名なヒーローを2010年代に来て、よくここまでカッコ良く描写したなと思えるくらいカッコいいんです。
滅び行く惑星クリプトンを舞台にした冒頭で描かれる、スーパーマンことカル=エル誕生の経緯や、同じクリプトン人たちの対立のシーンからして、明るい路線で描かれるアメコミ映画とは違うなと実感します。
そして地球を舞台にしたシーンに切り替わったところでは、成長して大人になってからの時間と少年の頃の時間を交互に映し出し、地球での育ての親からクラークと名付けられた彼の家族愛と苦悩を掘り下げています。
生まれた星や本当の両親のことは謎で、それでいて育った地球の人々とは馴染むに馴染めない複雑さがもどかしく、この辺りの描写はアメコミ映画というよりエイリアンSFです。
青いピタピタのスーツに赤いマントという普通に見ればダサい格好をしたヒーローの誕生までの経緯を、あくまでシリアス路線で丁寧に描くことで、実にマッシブな鋼鉄のヒーロー像を作り出すことに成功しています。
そして本作でスーパーマンに立ちはだかる敵がゾッド将軍率いるクリプトン星の反乱軍です。
スーパーマンと同じクリプトン人なのですが、彼らが地球に襲来するシーンはSFホラーです。
テレビなど地球のメディアをジャックして、地球に隠れているスーパーマンを引き渡すように要求するゾッド将軍がマジで怖いです。
それでいて彼ら反乱軍はカッコいいんですよね。
スーパーマンと同じクリプトン人であるため、やはり地球人とは比べ物にならないくらい強い!
地球を自分たちの住める星に変えるべく、地球人を犠牲にしてテラフォーミングしようとする、やはりエイリアンの侵略を描いたSFのような展開で、スーパーマンが同じクリプトン人の敵と死闘を繰り広げる様が熱いです。
★超人VSスーパーリッチの衝突が実現!
スーパーマンが同じクリプトン人と戦う作品ではじまるDCEU。
その2作目が『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』です。
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』
スーパーマンの驚異的な力を危険と見たブルース・ウェイン(バットマン)がスーパーマンと対立する本作のおもしろいところは、スーパーマンが宇宙からやってきた超人であるのに対しバットマンが普通の人間であることです。
バットマンの正体であるブルース・ウェインは金持ちの企業オーナーで、その財力で様々な装備を用いてゴッサムシティを犯罪から守っているわけですが、そんな重装備がなければ普通の人間ですから、スーパーマンと戦うには釣り合いが合わないように思われます。
しかしそう思わせない見せ方をしているんですね、これが!
前作でゾッド将軍率いるクリプトンの反乱軍に地球がテラフォーミングされかけた様子を目撃し、ゾッド将軍と同じくクリプトン人であるスーパーマンをヒーローとは見ずに、地球にとっての驚異である可能性を感じる冷静さがあります。
しかも犯罪から街を守っていながら彼もまた単純な正義のヒーローというわけではなく、幼い頃に目の前で両親を殺された経験から、心に闇を抱えている一面もあります。
無茶な活動を続ける彼を心配する、親代わりであり執事であるアルフレッドとの対話から垣間見える人間臭い弱さもあわせ持ち、スーパーマンとは違う魅力を持っています。
そして本作で描かれるバットマンの装備が重厚で、けっこうスーパーマンの攻撃に耐えています。
スーパーマンが手加減しているのもありますが、戦うシーンでも不釣り合いに見せないようになっています。
またお馴染みのバットモービルも、自宅に構える設備もハイテク感で見せてくれて(この辺りは『ダークナイト』トリロジーも負けていませんが)、ついでに執事のアルフレッドが今までのバットマン作品より若々しいです。
前作からのスーパーマンと並んで、バットマンも見事なアップデート描写です。
しかしまさかヒーローどうしが戦って終わる作品ではありません。
バットマンとスーパーマンにとっての共通の敵として立ちはだかるのはレックス・コープの社長・レックス・ルーサーJr.です。
とある流れで(←ここが笑える)バットマンとスーパーマンは手を組んで共闘することになり、互いの強みを駆使してサイコ野郎のレックスが甦らせたゾッド将軍と戦います。
なぜ自分は『マン・オブ・スティール』はおろか、この『バットマン vs スーパーマン──』をそれぞれの公開当時に劇場で観なかったのか、今は後悔しています。
記憶を消して過去に戻れるならば、スーパーマン単体でカッコいい『マン・オブ・スティール』を劇場鑑賞し、そこからバットマンが登場してスーパーマンと共闘する本作を劇場鑑賞する流れを味わいたいです。
☆ついに6人のヒーローが結集する濃厚すぎる242分
『バットマン vs スーパーマン──』の次に『スーサイド・スクワッド』『ワンダーウーマン』とそれぞれ別監督の2作品が間に製作され、その次にスナイダー監督の3作目『ジャスティス・リーグ』が公開されました。
しかしこの劇場公開版は事情があってスナイダー監督が途中で降板して、ジョス・ウェドンがノンクレジットで監督を務めた作品です。
ここでは後にスナイダー監督が自ら意図した通りに製作しなおし、HBO Maxで公開された『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』で語らせていただきます。
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
本作はブルース・ウェインがメタヒューマンと呼ばれる超人的能力を持つ者たちを集め、世界を守る集団「ジャスティス・リーグ」を結成させようとするところからはじまります。
バットマンことブルース・ウェインは前述した通り普通の人間なんですが(それでも鍛え上げられた肉体と武術がありますが)、能力を持つ者たちを1つのチームにまとめることに尽力しています。
こういうことができる者も確かに必要だし、本シリーズにおけるバットマンの魅力でもあります。
そして財力もある!
前作から接点があったワンダーウーマンに始まり、アクアマン、フラッシュ、サイボーグとコンタクトを取っていきます。
ここからの、それぞれのキャラクターがしっかり魅力的に映る演出がうまいんですよね!
ワンダーウーマンことダイアナ・プリンスはメタヒューマンの中でも早くからバットマンの良き理解者の立ち位置で、ジャスティス・リーグのメンバー集めに力になります。
後にサイボーグを仲間にすることに貢献する頼れる女性で、神の力を受け継いだ高い戦闘力を持ちます。
アクアマンことアーサー・カリーは始めはバットマンに協力することを断りますが、母国・アトランティスの参謀であり師でもあるバルコの説得で、母親より受け継がれしトライデントを手に戦います。
アクアマン自身がアトランティスの同胞を嫌いながらも、ステッペンウルフが送り込むパラデーモンをそのトライデントでグッサグッサ串刺しにする活躍ぶりが感慨深いです。
本作のキャラクターの中でもとりわけムードメーカーの学生・フラッシュことバリー・アレンは攻撃力は他のキャラクターほどありませんが、超高速で動ける能力で活躍します。
個人的には本シリーズの中でスーパーマンの次に好きなキャラクター…というより彼みたいな能力が欲しいです。
そして事故で一度は致命傷を負ったが、マザーボックスの力でサイボーグの身体で甦った、その名もサイボーグことビクター・ストーン。
科学者の父親との確執を埋めながら、世界中の機器やネットワークを自在に操る能力を手に冷静な判断力を駆使します。
ステッペンウルフを倒すために、驚異的なリスクはあるもののマザーボックスを使ってスーパーマンを甦らせることを最初に提案するのが彼です。
それぞれのキャラクターの背景を掘り下げ、いい感じに脇役のいないストーリーに仕上がっているのが本作で、そんなキャラクターたちが結集してステッペンウルフに戦いを挑むまでの展開を追っているうちに気がつけば4時間があっという間の作品です。
その中でもやっぱり際立ってカッコいいのが…、
そう、スーパーマンなんですよね~これが。
ヒーローは遅れて登場するという鉄板演出を地で行く登場の仕方です。
スーパーマン亡き後の世界を覆う暗さや、彼の恋人のロイスや地球での母親であるマーサの哀しそうな対話のやりとりから一転。
スーパーマンが再び登場してからガラッと空気が変わる感覚が気持ちいいです。
ステッペンウルフとの最終決戦でも、彼の登場によっていっきに形勢が逆転する様が清々しいです。
そういうスーパーマンと彼を思い続ける人物たちのドラマも相まって、242分という長さが割に合っている濃厚さです。
──というわけで、DCEUは失敗というけれど、ここで取り上げたザック・スナイダー監督のトリロジーは興行的な面は別にして傑作であると言いたい私の感想です。
例えばハーレイ・クインなど、DCコミックの悪役たちが活躍するデヴィッド・エアー監督の『スーサイド・スクワッド』や、『ワンダーウーマン』『アクアマン』『ザ・フラッシュ』のような個々のキャラクターが主人公の作品も個人的には好きです。
しかし、ここに来てやはりスーパーマンという誰もが知っているであろうヒーローを一番カッコいいと思わせるポジションに描いたザック・スナイダー監督の功績はデカいと思います。
それらの作品だけでもDCEUは観る価値ありです。
そしてこのスナイダー監督によるトリロジーを1つにまとめた4K UHDのパッケージがあるのがありがたいですね。
3作品のディスクが1つのパッケージに入っているためにDVD棚のスペースを取りません。
その中で『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』は前編と後編で2枚のディスクに分かれているため、やはりどうしても242分はキツいという人でも、分けて観れば良いので抵抗なく観られるのではないでしょうか。
DCEUを嫌いになってもこの3作品だけは嫌いにならないでくださいと言わんばかりの主張を感じる(勝手な想像)、おいしいトリロジーボックスです。