昔は、新年とともに一つ年をとった(いわゆる数え年)ものらしいが

私の頭の中身も、どうやらしっかり年をとったらしい。


 ……もしくは何かに乗っ取られているのか。



 ことのはじめは、我が家に実家宛の荷物が届いたことにある。



 徒歩数分の距離である、実家と我が家。

 その為、生協を二軒分注文したり、頼まれてネットショッピングの手配をすることが多い。


 注文自体は大した手間ではない。

 徒歩数分であるから、荷の移動も楽といえば楽。


 しかし、実際は届いたものを運んだり、引き取り依頼をいちいちかけるのは面倒で

後者の場合は、実家へ直接届くよう、手配してしまうことが殆どだ。



 今回届いたのは、生協からの荷物。

(毎週届くものではなく、別配送されてくる雑貨や衣料品の類)


 重さは、ほんの数百グラム。

 大した重さではない……のだが。


 季節柄、わざわざ外出してまで届けたくはないと思ってしまう。

(普段出かける方向と、実家の位置とが、全く逆方向である為)


 ――ので、母に電話をかけた。



私「そっち宛の荷物が届いたんだけど」


母「荷物?何かあった?」



 どうやら何を注文したのか、忘れているらしかった。



私「ほら、生協の……軽いから取りに来てもらってもいい?」


母「いいけど、中身は?」


私「中身はムートンの……」


母「ああ、ムートンの!」


私「そう、ムートンの便座!」




 ……しばし流れる沈黙。



 この時、頭の中では「ムートンのスリッパ」と、確かに口にしていた。


 脳内の何がどう働いて、スリッパが便座に置き換わってしまったのか……。



 救いは、絶対に冷たい反応が返ってくるだろう、父との会話でなかったことだろうか。



 その後は、誤魔化すように電話を切ってしまった。




 よく、年をとると言葉が出てこなくなるという話を聞くが。


 言葉は出ているけれど、全く意図しないものである場合……それもやはり年なのだろうか。


 はたまた脳に何か寄生していて、言語中枢を乗っ取られでもしているのか。



 新年から、バカなことを考えてしまった一件だった。




 ※ムートンの便座――後で想像して、一人バカ笑い。温かくてよさそうだが、掃除がね……。