登園途中、たぬきの仔を見た。


 丁度、同じ幼稚園の子の親と「この近隣で狸が出るんだってね」と噂していた折、子供たちが見つけたのだ。

 あまりのタイミングのよさに、最初は猫の仔とでも間違えたのかと思ったが、覗いてみると本当に狸だった。

 両の手のひらにすっぽりと収まってしまうくらいの、ちいさな仔。


 「可愛い~」「触りたい~」と子供たちは口々に騒いでいたが、狸は存外に気性が荒い。

 こどもとはいえ、そうそう手を出していいものではないのだと教え、バイバイをしてその場を後にした。


 残された狸の仔は、懸命に啼いていた。

 もしかしたら散歩の途中で親とはぐれてしまったのかも知れない。


 私の住んでいるところは都区内なのだが、蛇やら狸やら、生き物とやたら縁がある。

 先日はお迎えの途中、何故か道路の真中でくつろいでいる鴨と遭遇(車でも来たら……と思ったら、どうやら迷い子だったらしく、キョロキョロしたかと思ったらどこへやら飛び立っていった)したし、去年は近所の川でなんと鵜を見かけて驚いた。一羽だけだったので、あれも迷い子だったのだろうか。


 野良猫、鳩などの鳥に始まり、街中に生息している生き物たちに、大人はただ見ていて「可愛い」で終わることはなく、病害について心配をしたり、生態系の心配をしたり、はたまた目を向けている余裕すらなかったりする。

 ところが子供は、犬猫鳥などの動物から、雨の日に団地の壁に張り付くダンゴムシの群れ(本当に"群れ"なのだ。初めて見た時には、流石にギョッとした)にまで、生き生きと目を輝かせる。

 今日見た狸の仔の話も、きっと幼稚園でお友達や先生たちに話すのだろう。身振り手振りつきで。

 自分たちの住む場所が、幼い子供たちが、さまざまな生き物と接することの出来る環境であることを、嬉しく思う。


 人間が多く住む街中では、他の生き物との共存はなかなか難しく、常に色々な問題を抱えている。

 今日見た狸も、元は公共施設の一つの片隅に住んでいたらしいが、その建物が改修工事に入った為、住む場所を失い、きっと新しい住処を見つけて越したばかりだったのだろう。


 帰り道、同じところを通ったので、ふと気になって狸の仔がいた場所を覗いてみた。

 当たり前だが、もうそこには影も形もなかった。