Vo澁澤とGt加藤のプロジェクトはじめております、 是非ご覧ください。
帝都激楽帯 「跋 -あとがき-」
帝都激楽帯 「跋 -あとがき-」
などて君は去りにしと
朧眼閉じもせで
ああ旅人よ 秘めよ知るはずぞ
来し方を 見返れど その掌虚ろなり
静けき宵 朱き空に 揺蕩う
雁に交じる 淡き声音に 驚き仰ぐ
然れど軈て 項べ垂れて 息衝く
誰ぞ知らむ 蓋し空似と 訝り払う
などて故郷へ訪ねきて
在りし人に囚はれぬ
ああ旅人よ 耐えよ知るはずぞ
来し方を 偲ぶれど 我が追いしは虚ろなり
彼は誰時 朱き空に 誘う
槐の枝に 架かる梯の さぞ優しからむ
外套の襟 緩める手に 寄り添う
細き指の 甘き温もり 喜び咽ぶ
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駅に着ひたのは何時間前だつただらう
要らなくなつてしまつた私達の家を後にして
本のひとつも携へることなく
ただおまへの影を瞼にばかり写したまま
斯の線路の脇をふらふらと歩ひてゐた
窓辺を通り過ぎる木々を眸で追つているうちに
今の私の命など只のあとがきに過ぎぬことに気が付ひて
おまへの歩ひた道を辿れば
少しは気も紛れるぢやないかと思つただけなのだ
今日の昼は晴れてゐたものだから
並木道は全く夜になつていると云ふのに
空は未だ幾分か明るく
暗くなれば風が一気に冷て
丁度良く両足をかぢかませてくれる
今の声は
嗚呼、私を見つけてくれたのか
何を示すでもなく私の名を口にして
其処に梯があると教えてくれたのか
さうだ、おまへは最後まで優しい女だつた
屹度おまへなら
斯のつみびとが更に咎を重ねやうとも
屹度おまへなら
青白めた掌に私の頬を抱き
仕方のない人と許してくれるだらうね
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「無為に老いたるその身なれば
終幕も許さう」
彼は誰時 朱き空に 誘う
槐の枝に 架かる梯の さぞ優しからむ
静けき宵 頬伝ひし 月影
祈れるまま 夢む面影 我を連れ行け
然れど軈て 笑み深めて 降りぬ
我に来よと 憑るは禍事 君にあらじと