春彦は22時、新宿発の深夜バスに乗った。 昨年「ラムサール条約湿地」に登録された尾瀬へ新しい発見を求めて・・・。 AM3時30分、大清水に到着。真っ暗な林道を980円の懐中電灯頼りに歩いて、登山口へと向かった。全く誰一人歩いていない。暗闇に聞こえてくるのは無数の滝の音や勢いよく流れる川の音だけだ。一応、熊よけの鈴と笛を身につけているが、こんな所で熊に襲われて笛を吹いても誰にも聞こえない。 春彦は、ふと空手の恩師が言っていた事を思い出した、「熊に襲われた時に死んだフリはするな!熊の口の中めがけて正拳突き、噛まれた拳はそのままで中段逆突き、そして肩車で投げる。熊はびっくりして逃げていく!」 春彦は40歳手前にしてようやく悟った。先生の話は嘘だったと・・・。 一ノ瀬、三平峠を越えてAM6時過ぎ尾瀬沼に到着。 沼尻平、段小屋坂、見晴、東電小屋、山ノ鼻経由で鳩待峠に着いたのは午後1時。一睡もせずに(バス中は連れの気持ちよさそうな寝顔といびきで腹が立ち寝られなかった)約9時間歩いたことになる。 尾瀬ヶ原一面に咲き乱れているニッコウキスゲやワタスゲ、時期を過ぎても所々で頑張って咲いているミズバショウ・・・、湿原を渡る風や可憐な花々が心を癒し言葉には出来ないほどの感動が沸き上がってくる。 春彦は悟った「春夏秋と季節を彩る花々があるように個別株も旬がある。ミズバショウのように旬が終わっても来年また綺麗な姿を見せてくれる・・・」 9984「ソフトバンク」 千田川