「おはよ~っ」声をかけながら、

奥の階段から、ドタドタと駆け降りてくると、

「千春ちゃん、いつも元気だねぇ~」と声が返ってくる。

駅前喫茶の朝は忙しく、いつも、人でいっぱいだ。

店の前をたくさんの人々が、行き来しているのが見える。

街の朝は、この時間帯だけが忙しく、小鳥は道に降りてくることも

出来ず、電線の上で鳴いているくらい。

空気が澄んでいて、気持ちがいい。

いつもと変わらない朝。

常連の客は、みな、千春の小さい頃から食べに来ているので、

顏馴染みばかり。よく知っている。

千春がエプロンを付けながら、カウンターの中に入ると、

「千春ちゃん、今日、部活?」と声がかかった。

声をかけたのは、KB団地のおじさん。

もちろん、サラリーマンだ。通称、トモさん。

娘さんがいるらしいのだが、母親の方に行っているらしい。

私も娘がいてねぇとよく言っている。

「8月まではないよ。合宿がね、4日から9日まで。

それまで、宿題をやりなさいってさ」

パンを切りながら言う。

「ははは。学校は勉強するところだもの、やることはやれって

ことだな。」

カウンターの前のテーブルに座って話しかけるおじさんは、

メガネ屋の森田さん。通称、クロ丸さん。

いつも、黒くて丸いメガネをかけているからだ。

「そんなこと言って、自分の子供の頃は勉強なんかしないで

遊んでばかりいたくせに」

横から言ったのは、本屋の矢上さん。通称、御用キキ。

他の店に行っては、「なんかいい話し、なぁい?」って聞くのが

お決まりだ。その名のとおり、「まるで、御用聞きだね」と

言われたことから始まっている。

「お前には、言われたかねぇよ」

とクロ丸さんに言われると

「ちぇっ、本当はそうでも言うもんじゃねぇの」

と、ちょっと、ふてくされて御用キキは言った。

「そうかよ」

「そうだよ」

「おまえなぁ~」

大声で話している人は、他にいない。この時間、

普通のサラリーマンは、黙って忙しく食べているから。

「ちょっと、二人とも。邪魔しに来たのなら言いつけるよ」

豆腐屋のおかみさんに言われた途端、しゅんとなってしまった。

思わず笑ってしまう。

狭い地域だと幼馴染の存在は、大きい。

二人ともおかみさんにだけは、頭が上がらないらしい。

それだけ仲がいいのだ。

私も向かいのタツくんや、隣りのリナちゃんとも仲がいい。

店の中は、平日ともなるとスーツ姿でカウンターやテーブルが

埋まってしまう。

うちのモーニング・セットは、安くてうまいのが自慢だからね。

こんなに人が入れ替わりが激しいのに、なぜか、

馴染みの人たちは、いつも決まった位置に座っているから

不思議だ。わざわざ、席を移動しているのだろうか。。。

そうそう、豆腐屋のおばちゃんは、通称、豆おばさん。

入り口奥のテーブルが定位置だ。なぜそこなのか、

店の外も中も見れるから?かな。

いつも、キョロキョロしてるし。

「千秋ちゃんは、まだ寝てるの?」

呉服屋のおかみさんが聞いてきた。

めずらしく、今日はモーニングを食べている。

「朝練があるって、早く出て行きましたよ。

あれ? おかみさん、今日は何?」

そう聞き直すと、

「今日はね、デパートの品評会があるのよ」

「ふぅん」と相づち。

「そういうのがないと、なかなかね、ここへ食べに来れないから。

ふふふ。千春ちゃん、おいしいよ」

どうやら、こじつけて食べに来たらしい。

「ありがとうございます」

ちょうど、レジに向かう人がいたので、ついでに答えた。

うちのモーニングセットは、A・B・Cの3種類あるのだが、

卵が目玉焼きか、スクランブルなのか、ゆで卵なのかの違いって

感じで、ほとんど後は同じなのだ。ケチャップだけじゃなくて、

マヨネーズも添えてあるのが、ミソ。混ぜても別々でもいける。

もちろん、朝のコーヒーは、アメリカン。朝は、さっぱりと

飲みやすくしてあるのだ。父さん自慢のコーヒーは、ブレンドが

ピカイチなのだが、忙しい時は煎れない。

評判は、すこぶるいいんだけどね。

千春は、いつも、ウィンナーやパンを焼いたりと、簡単な手伝い

をしているのだが、なかなか、毎朝というわけにはいかず、

よく寝坊してしまう。

「千春、向こうのお客さん、2-3に出して」と母さん。

「は~い」

夏休みのないスーツ姿のおじさんたちと、毎日夏休みのような

ご近所メンバー。

これが、うちの喫茶店の日常風景だ。

今日も暑くなりそうな、そんな朝だった。。。