※一つ前の投稿の続きです。

蝋燭滝30mの下降は空中懸垂を交える。
僕は5人目(メンバー内最後) として下降をしたが、既に水位は誇張を避け少なく見積もっても、最初に降りた石川さんの時の2.5倍にはなっていた。
落口からこれから下降するラインを確認しようとするが、ダムの放水の如く勢いよく噴き出る水の前に、下の様子は何もわからなかった。
先に降りていった仲間が降りたラインを思い出しながら、見えない壁を歩くつもりで僕は滝の中に足を踏み出した。
強烈な水流で足を持っていかれそうになるところをうまく荷重移動と体幹で耐えながら、水流の中に壁を探す。
強烈な水圧に耐えながらもどうにか、空中懸垂下降ポイントまで降りてきた。
実際には空中懸垂ではなく、水中懸垂という表現が適切に感じた。



姿は見えないが、この滝の中を僕はロープを使い懸垂下降という技術で下降をしている。波打つオレンジのロープの先、この滝の流芯に僕はいた。
懸垂下降では腰を深く落とし、まるで重力が横向きになったかのようにして、壁を後ろ歩きして下降する。しかし水中での懸垂下降では、圧倒的な水圧を前に僕の体は簡単に頭と足がひっくり返されてしまった。
上向きになった顔面に容赦なく水が叩きつける。
殴打される感覚に加えて、水が息をすることを許さない。水面下以外にも溺れる状況がある稀有なケースの一例だ。溺れる前に滝の中から脱出しなくてはならない。体が反転し、頭から降りているので、下降速度が早すぎると、途中の岩に頭を強打し脳震盪するかもしれない。息が苦しい焦りがある中、僕は下降速度を冷静にコントロールする努力をしていた。
しかし息は持ちそうになかった。顔が上向きにあるからいけないのだと思い、どうにか頑張って、顔を地面の方向に向けた。後頭部を滝が殴るが、顔面の下に僅かに空間ができる。この短い時間にどうにか息をするコツを掴んだ。
やがて顔面を包む感覚が変わった。さっきまでの轟音が鈍く感じる。さらに水に殴られる感覚も緩和したように感じた。
それが何かを理解するのに少しの時間を要したが、どうやら僕は間に合ったようだ。溺れる前にどうにか滝壺の水面下までたどり着いたようだ。
必死の状況にどちらが岸かわからなかったが、仲間がロープを引っ張ってくれたおかげで泳ぐべき方向がわかった。心肺機能は限界寸前で泳ぐための手足に力が入らない。仲間の声の方向に必死に泳いだ。
本来この滝壺は歩けるのだが、泳がねばならないほどに水位は増していた。


振り返る蝋燭滝は事前に確認していた下降記録と比較してぶっとく成長していた。


なんとか水を避けられる位置に避難した僕らはこの後の対応を話し合った。

1. 下調べしていた通りの下降を続けるか
2. 渡渉とクライミングを交え、下山可能な尾根にあがるか
3. 水位が下がるまでビバーク(幕営)するか

この選択に対する議論を交わし、2 or 3を選んだ。
時間はまだまだあるので、比嘉くんと僕とでクライミングでの脱出ルートを探索開始。
僅か5分で何者かが張ったフィックスロープを発見した。恐らくこの蝋燭滝を見物にくるために張られたロープだろう。このロープの先にはなんとハシゴまであった。幸運であった。
皆んなを呼び、5人で先人が用意してくれた蝋燭滝までの見物ルートを利用し車まで戻った。

後から振り返れば、下降できるかわからないとき、ガイデッドラペルの技術で危険な滝の水線を避けて下降する手段もあった。
またザックを背負って下降したが、あらかじめザックを投下してしまえば、体がひっくり返される予防に貢献してくれたことだろう。
もしかしたら、水中懸垂での溺死のリスクをもっと下げられたかもしれない。
危険を予め予測し適切な選択をするにはある程度の経験が必要になるが、経験不足を補うのは日頃からの想像だと思う。
このような体験をして最後に述べるのは平凡な内容ではあるが、起こり得る可能性とそれらへの対処の方法を心得ておくことが改めて重要であると感じた。



今回怖い思いをしたが、それでも僕はまた命をかけて山に行くだろう。