洋の東西を問わず、古代から髪には生命が宿り、霊力があると信じられ、
髪そのものが信仰の対象とされることがあります。
旧約聖書の「土師記」には、髪を伸ばすと特殊な霊力が増すので、
苦行僧のナジル人は髪を切っては、いけないとされています。
古代エジプトでは、外国に長期滞在をする時は、見知らぬ悪霊から
身を守るために、髪を伸ばしたままにする習慣がありました。
アラブ諸国では 宗教上 女性は髪を隠す風習が色濃く残っています。
日本では、願掛けの際に神にささげる、船の守護神である
船霊様の神体に対する、貞節のしるしとして夫の棺おけに
妻の髪を入れる、など多くの習俗が残っています。
特に女性の髪は宗教性が強く、その象徴的な例として
神社・仏閣に奉納された歴史上の著名な女性の遺髪を
あげることができます。
奈良・興福寺の光明皇后、吉野・弁財天の静御前、
京都・西明寺の中将姫などの遺髪が、寺の宝物として
大切に保存されています。
長い髪はまた権力、力のシンボルでした。
それを切ることは権力や力を失う、つまり「髪をきられる=服従」
という意味合いを生み出します。
例えば 仏門に入る男女はすべて髪を短く切り、あるいは剃ること
によって俗世間から抜け出て、仏に仕える身分となるのです。
洗髪にも 宗教的動機が強くあらわれて、儀式、傷病の治療などが
その目的とされました。
また、髪の汚れは「けがれ」と言う観念と結びつき、
病気、災害、犯罪なども、等しく「けがれ」として、
外面的な捉え方をし「清め」の意味合いをもたせ、洗髪をしました。
人間の歴史の中では、どの民族も髪に特別な注意を払ってきたのは、
宗教的意味合と強い係りを持っています。
「髪」は「神」に通じるとする思考は、どの民族にも共通するものの様で
髪の神秘性を感じます。