新世代 (5) -聞いて驚いた若者のファッション-
なにはともあれ先日の降山に電話をかけた。彼はファッションに口うるさい人なので(お洒落とは思わないが)色々と聞いてみる価値はある。 「あのォ松本ですけど、降山さん、この間の自転車なんですけどね、あなたの投稿はいいですねぇ。私はもう、すっかり感心してしまって。ええ、ええ、はい、非常に面白かったです」 電話の向うの降山は機嫌が良さげである。 「それでね、あれを見ていったら、繁華街でオシャレしてる(何度も言うように、私にはあまりそうは見えないのだが、そういわないと彼が気を悪くする)写真があったんですけど、あれ、コツとかあるんですか」 「ああ、まず、服ねぇ。大きめのサイズがいいよ。楽だし、トレンドだし」 「それは前々から流行ってませんでしたか」 「まあ、似合うんでしょうねぇ。いつの時代も楽なのが好きなんですよ」 そうかなあ。今時の若い男がやってるピアスなんて、穴を開ける時、どう考えても楽じゃないと思うのだけれど。 「それで、色使いとかは」 「そんなねぇ、俺はファッションデザイナーじゃないんだから、知りませんよ。まあ、同じような色調で固めとけばいいんじゃないですか」 ファッションセンスって天性なのだろうか。 「どんな服がお好きなんですか」 「一概には言えないけど、パーカーとか」 「まあ、私はパーカーなんか着ちゃったらフードの重さで肩が凝ってやりきれないんです」 大笑いされた。 「それで、下はどんなんですか」 「デニム生地の、緩いやつかなあ」 「そういえばGUがトレンドらしいですね」 私も一枚GUを持っているのだが、案外よくて普段着から外出までできてしまう。 「そうそう、GUは結構持ってるけど、GAPの方がいいかな。でも無印も捨てたもんじゃないかもね」 「私はどこのかわからないのをたくさん持ってるんですけど、結構いいですよ」 「ああ。あの黒烏みたいな服ね。あれいいと思ってたんだけど、どこのなの」 「それが閉店間際のセールでねぇ、覚えてないんですよ。銘柄なんて全然気にしないので」 「それで、装飾品の類はどうなんですか」 「装飾品というと」 「鞄とか財布の類ですよ」 私は彼が鞄を持っている姿を見たことがない。 「ああ、特に気にはしません。黒系のものが好きですから、そんなのを買いますけど」 「へえ、時々繁華街でルイビトンの鞄なんか持った若者を見るけど、あんなのどうなんだろうねぇ。いやらしいですよね」 「まあ、似合ってないからね」 そういう意味じゃないんだけどなぁ。 「そういえばあなたはいつもネックレスをしてらっしゃいませんでした?」 「ああ、あの銀色の十字架ね。あれはなんなんだろう、お守り的なものですよ」 「スポーツマンがやってるミサンガみたいなもんですか」 「そうそう。ところで、お前のファッションへのこだわりはなんだよ」 私はすっかり困ってしまった。 「そうですねぇ、いろんな人の服装を参考にしてますよ」 「例えば」 「雑誌とか」 「へえ」 続いて話を聞くのは前本という知り合いである。といっても知人に前本は大量にいるのだが。 「あのぅ、あなたはファッションとかは?」 しばらく無駄話をした後にさりげなく訊いてみた。 「いやァ、別に、そこにあるもんを着てるよ〜」 言ってはなんだが、彼は実際洒落っ気がない。 今度は件の都美原が出てくる。 「いつもオシャレですねぇ」 「いつも口がいいですねぇ」 まんまと返された。 「あなたはファッションにはどんな?」 「そう、私ね、最近の女の子が露出が多い服着てるじゃない、ああいうの嫌いなんです。なんか下品なんですよね。私はスタイルラインがはっきりするような服が好きですけど」 「あなたは首が長いんでしたっけ」 「そう、だからタートルネックとかよく着るんです」 「鞄とかは」 「革製のハンドバックって、それくらい知っているくせに」 本革かビニールか知らないけれど。 「でもああいうのも、ブランド品、シャネルとか持ってる人いるじゃないですか、ああいうのを持ったって、身の丈に合わないような気がして。でもそうそう、私ピアスしたいんだよねー。松本はどう思う?」 「あれって体に合わなかったらいつまでもピアス穴が膿むらしいですよ、それに稀に耳たぶにも軟骨がある人がいるとか」 「まあ」 まとめると、安価でオシャレなものが好まれているらしい。鮮やかなものとか、露出が多いけどセクシーではないものとか。その場にある材料でパパッと美味しい料理を作ると言った具合か。 これを知り合いの桑山に伝えてみると、 「まさか。ホントにいいものっていうのは、いつまで経っても変わらないんですよ。モナリザだってベートーベンだって、何年経っても名作でしょう?トレンドは、あくまでお助けツールですよ」 なんということだろう。彼は雑誌レベルで洒落ているのだから、納得せざるを得なかった。