スターウォーズファンならずとも、恐らく誰でも知っていて最もポピュラーなキャラクターの1人がダースベイダーではないだろうか。
悪の権化として描かれるダースベイダーだが、エピソード1~3では、彼がどのようにダークサイドに堕ちて行ったかが語られている。

エピソード1では10歳の少年アナキン・スカイウォーカーとして登場し、エピソード2で青年となりジェダイナイトとして活躍、エピソード3でダークサイドへ堕ちる。
そしてエピソード6に当たる「ジェダイの帰還」で息子のルークによって死の間際にライトサイドへの帰還を果たす、というのが大まかな流れだ。

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★選ばれし者

アナキン少年は、母シミ・スカイウォーカーの処女受胎によって誕生する。
母子は辺境の惑星タトゥイーンで奴隷として生活しているが、彼は並外れた身体能力と直感力を持ち、機械にも強く10歳にして通訳&儀礼用ドロイドC-3POをジャンク部品を掻き集めて完成(外装無しではあるが)させてしまうような天才児だ。

細かい物語の内容は割愛するが、そこへタトゥイーンへの漂着を余儀なくされ、スターシップの部品が調達できずに困り果てたジェダイマスター クワイ=ガン・ジン(日本語の「開眼人」から名付けられたと言われる)と惑星ナブーの女王アミダラと出逢う。
クワイ=ガンについては、別記事で詳しく述べる。

奴隷ながら、母から無償の奉仕を美徳と教えられて育ったアナキン少年は、多額の賞金を得ることができるポッドレースに自分が出場し、その賞金でスターシップの部品を買うよう提案する。

スターウォーズには多くの異星人(というか舞台が銀河系そのものなので色々な種族と言うべきだろう)が登場するが、ポッドレースはヒューマノイドには不可能とされる技量が必要な危険なレースだ。アナキン少年はそれができた。クワイ=ガンもその話を聞いて「ジェダイ並の運動神経だ」と述べている。
そうしてポッドレースへの準備を進めるうちに、クワイ=ガンは彼こそジェダイの伝説で語られるフォースにバランスをもたらすという「選ばれし者」なのでは?と感じ、怪我の治療を装って血液サンプルを採取し検査したところ、マスター ヨーダさえ敵わないだろうという数のミディ=クロリアン値を確認し、アナキンがフォースの申し子であり、選ばれし者だと確信する。
見事ポッドレースで優勝したアナキン少年は、クワイ=ガンに導かれマスター ヨーダの反対を受けながらもジェダイとしての訓練を受けることとなる。

※ミディ=クロリアンとは?
ミディ=クロリアンは、あらゆる生きた細胞の中で共生関係を作る知性を持った微小生命体である。あらゆる生命体の中に存在するミディ=クロリアンは集団意識を構成し、生命を支えるすべての惑星で同じ形をしている。事実、彼らは生命が存在するために必要不可欠な存在なのだ。また、彼らはフォースと呼ばれる普遍的なエネルギー場との繋がりを持ち、多数集まったミディ=クロリアンは共生相手にフォースを検出させることができるようになる。この繋がりは心を穏やかにすることによって強められ、ミディ=クロリアンに共生相手との会話やフォースの意思との交信を可能にさせている。通常の人間が持つミディ=クロリアンは細胞1つにつき2,500個以下だが、ノヴァ・スティルのような多少のフォース感知能力を持つ生物ではその数が5,000を超えるようになる。ジェダイは特にミディ=クロリアン値が高く、中でも最高の値を持っていたアナキン・スカイウォーカーの場合は20,000を超えていたとされ、これはジェダイ・マスターヨーダをも上回っている。
(出典「スターウォーズの鉄人」)


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母と別れてクワイ=ガンと共に旅立つアナキン少年




★人間としての苦悩

エピソード2では青年となったアナキンの苦悩が描かれる。
少年の時出逢ったパドメ・アミダラ(女王の任期を終え元老院議員となっている)と恋に落ち、タトゥイーンで別れたきり会うことが許されなかった母の死に立ち会う。
母シミはアナキンと別れた後に農場を営む男性に見初められ、奴隷の身分から解放されて結婚していたが、蛮族の人狩りに遭っていた。アナキンは母が苦しむ姿を繰り返し夢で見ていたことから、いてもたってもいられずタトゥイーンに駆けつけるが、いみじくも母が息を引き取る直前であった。そして母をさらった蛮族を女子供を含め皆殺しにしてしまう。

パドメはそんなアナキンの心に寄り添い、愛情を深めていく。

ジェダイの掟では、家族愛も恋愛もご法度である。故に結婚もしなければ子供も持たない。
それらの関係は執着、喪失への恐れを産み、恐れはダークサイドへ繋がることから、劇中ではマスター ヨーダが繰り返し忠告している。
アナキンがパドメに「愛はむしろ推奨されているんだ」と語るシーンがあるが、それは少なくともアガペー、もしくはそれ以上の普遍的な愛のことである。

結局、アナキンは家族愛も恋も捨てることができず、母の仇を打ち、秘密裏にパドメと結婚する。

エピソード3では、パドメが妊娠し、人間的幸福の絶頂を迎えるが、今度はパドメが出産時に命を落とす悪夢に悩まされることとなる。

そんなアナキンに兼ねてから目を付けていたのが暗黒卿(シス)、後の銀河帝国皇帝となるダース・シディアスだ。シディアスはアナキンを巧みに誘惑し、ついにダークサイドへ引き込むことに成功する。アナキンはここでベイダー卿というシスネームを与えられる。

ジェダイ達はアナキンの裏切りにより次々と抹殺され、並外れたフォースを有している為に突然の危険を察知して脱出に成功したマスター ヨーダ、またアナキンの師であり運良く不穏な空気を察知して逃れることができたオビ=ワン・ケノービ以外のジェダイはほぼここで命を落とした。
ちなみにこのジェダイ抹殺計画は前々から画策されており、オーダー66というコードネームによって決行された。

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皮肉なことに、アナキンがダークサイドへ堕ちたことを知ったパドメは生きる希望を失い、出産時に死亡してしまう。恐怖から行動した為に、結局のところ自身で悪夢を現実化してしまったのだ。

産まれた子供は男女の双子で、ルーク、レイアと名付けられた。
マスター ヨーダとオビ=ワン・ケノービは、皇帝とダースベイダーとなったアナキンから子供達の存在を隠す為別々に育てることとし、ルークはシミの結婚相手の息子(アナキンの義兄弟)、レイアはジェダイ救出に尽力したオーガナ元老院議員が引き取った。



★ライトサイドへの回帰

ここからは本家三部作(エピソード4~6)の内容となる。
銀河帝国皇帝の直属の部下として暗躍するが、ルークが息子であることを知り、仲間になるよう誘惑する。

親子で皇帝を倒し、一緒に銀河を支配することを提案するのだ。
元々プライドの高かったアナキンは、皇帝に服従していることも不満だったと思われる。

ルークは、父は立派なジェダイであったが戦死したとオビ=ワン・ケノービ(ルークの成長を見守る為、タトゥイーンでベン・ケノービと名乗り隠遁生活をしていた)から聞かされていたので、大変なショックを受けるが、逆に父をダークサイドから連れ戻すことが使命だと感じ始める。

ジェダイとしての修行を終えたルークは、単身で皇帝とダースベイダーの元へ赴く。
皇帝は、ルークに憎しみを持って闘うことを求め、妹のレイア率いる反乱軍の仲間達が皇帝の罠にはまって次々と命を落とす様を見せ付ける。
ジェダイが怒りや憎しみなどネガティブな感情を持ってライトセイバーを振るう時、それはダークサイドへの転落を意味するのだ。

ルークは不屈の精神によってその試練に耐えるが、闘う術を失ったに等しく、勝ち目はなかった。皇帝は降伏しないのならやむを得ない、と彼を抹殺する決断をする。
皇帝から放たれる電撃のようなダークフォースに苦しむ息子をじっと見つめていたダースベイダーだが、助けを求める息子の叫びに耐え切れなくなり、おもむろに身を呈して息子を救うのだ。文字通り自らの命を犠牲として。

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この行動を、単なる家族愛によるものなら本当にライトサイドへ回帰できたと言えるのか?という疑問を持つこともできるが、私なりの解釈を加えるならば、息子を救う行動はキッカケに過ぎなかったと言える。

現に息を引き取る間際の素顔のアナキンは、心の平安を得たことが見て取れる。

また、ダースベイダーがジェダイとしてのアナキンへ立ち返ったのみならず、更にそれ以上のことろへ昇華することが出来た、というのは非常に意味深である。
ルークが遺体を火葬すると、既にアセンションしていたオビ=ワン・ケノービ、マスター ヨーダと共に幽体となって姿を現しルークに微笑みかけている。
ただジェダイであるだけでは、アセンションの域に達することはできない。ジェダイの修行とはまた違ったメソッドが必要なのだ。このことは、クワイ=ガン・ジンについて書く時に改めて述べたいと思う。

オビ=ワン・ケノービとマスター ヨーダを俗世から離れて修行した聖者(彼らは上記のアセンションのメソッドを知っており実践していた)とするなら、アナキンは人間として俗世にまみれながら覚醒した存在である。
俗世の愛憎劇を味わい尽くし、ダースベイダーとして悪業を重ねながら苦しみ続けるというイニシエーションを経て自力で悟りを得たのだ。息子の存在も俗世の産物である。

これは、天下乃与太郎氏がよく話題にされる、いわゆる「悪を抱き参らせた」状態ではないだろうか。
また、処女受胎によって産まれたことから、キリストを彷彿とさせる。

エピソード3ではマスター ヨーダに命じられオビ=ワン・ケノービがダークサイドに堕ちたアナキンと死闘を繰り広げるが、アナキンの心の奢りのちょっとした隙をつきオビ=ワン・ケノービが勝利する。
彼は、弟子であり実の弟のように可愛がっていたアナキンが瀕死の状態なのを見つめながら「選ばれし者だったのに!」と悲痛な叫びを上げる。(この時溶岩で身体の殆どが焼け焦げてしまうが、ダース・シディアスの手の者が駆けつけて蘇生させたのがおなじみのダースベイダーの姿である。)

しかし、結果的にアナキンはジェダイの伝説、フォースに調和をもたらす者としての役割を完璧に果たし、選ばれし者たる所以を証明したのだ。
それは、ダースベイダーという経験を経てこそ成り立つ構図だったと言えよう。

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