白い階段はそのまま空に続いてるような気がして・・・ませんっ、

いませんいません。けれども一段、また一段と上へ昇るのは、下界

に広がる俗物と一線を引く上昇のようで僕は密かなる高揚を覚え、

ふた月ほど前から依存性を発揮し始めたこの上昇を繰りかえす毎日

を送っている、僕もまた俗物なのでした。

ごめんなさい、お父さん。子は父の背中を見て育つと言いますが僕

はあなたの背中の中腹に腰を下ろしてがんとして動かない、その黒

子しか見ていなかったのです。そして今もその黒子を父と誤認し、

その横にチョロンと生えた異常に発育のいい背毛を母と推測し、こ

の2つの偉大な黒から生まれた僕はこの白い階段にさぞコントラス

トとして映えていることだろうと内心得意になっているのです。

ようやく階段の白が終わり、眼前に広がるは雲ひとつしかない快晴

の青。足元を見やれば生い茂るクローバーの緑。四つ葉のクローバ

ーでも探そうかしらん。けれどこの道の止まることを異端とする性

質上僕はテクリテクリ歩き続けねばなりません。第一、クローバー

を探すのに腰を屈めるのは面倒の一言に尽きます。豚野郎です、い

え野郎豚です。犬畜生、いや畜生犬め!己の怠惰に浴びせる罵詈雑

言は尽きることがありません。僕はいつでも腰を屈めていいのよと

妖艶に微笑むクローバーに小夜奈良を言い、振り返りざまにペッッ

と痰を吐いてやろうと喉を鳴らしはじめました。するとあなをかし

や、クローバーの緑の中から人の声がするのです。ややっ、これは

不思議のにほひがする…、声の主はおそらくこの退屈な僕を世にも

奇妙な非現実へと誘ってくれるに相違ない!そう思うやいなやその

緑をかき分ける僕、拍子抜けしてしまうほどあっさりと暴きだされ

た声の主はクローバーの健康な緑とあまりにも不釣り合いなことこ

の上なし!

なんとそこにはババアがいたのです。

ババアはふかふかのクローバーのベッドにその身を沈め、ぼそりと

呟きました。

「溢るる真ん中のワタクシ」



          『ノルウェイの森』を読んで





「大丈夫よ、ワタナベ君、それはただの死よ。気にしないで。」



ぼくは まだ大切な人をなくしたという経験がない。


たぶん自分の死よりこわい   


でも確実にそれはくる


「心の中で生き続ける」なんて 


もうそんな歳じゃないんだからやめてよ


この小説を読んで、楽しいときに笑い、辛いときに泣くように


死は、人間のひとつの表情かもしれない、て思った。


ふと死んでいる、そんな感じ。






「あなた、今どこにいるの?」   僕は今どこにいるのだ?



誰?って聞かれたら 名前を言うよ ふつう。


でもそれでも誰?って繰りかえされたら


ぼくは不安になって泣いてしまうかも。


ぼくの中のまど全部にカーテンを下ろして


どこでもない場所に隠れよう。


そしたらキミがぼくの名前を呼ぶんだ。


でもぼくはしばらく、それが何を示す言葉なのかわからないで


それでもキミはぼくの名を呼びつづけて。


そしたらほら、ぼくがまた生まれた。



・・・って感じでしょうか?


あなたがいることで あなたでない存在として


ぼくがいる


お互いがお互いを規定しあって世界は成立してんだぜって?


あかり姫?