永遠の0 (ゼロ)/百田 尚樹
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以前に『ボックス!』 をご紹介した百田尚樹くんの(たぶん)デビュー作が本書『永遠の0』です。


『ボックス!』は高校を舞台にしたボクシング小説でしたが、本書は太平洋戦争を舞台にした戦争物です。

ついこの前カーレド・ホッセイニの『千の輝く太陽』 を読んでアフガンの悲劇に衝撃を受けたところでしたが、やはり日本人ですね、『永遠の0』にはそれを上回る衝撃と感動がありました。



司法試験浪人生のぼくが姉に依頼されて、特攻隊で死んだ自分の実の祖父(祖母の最初の夫)のことを関係者に聞いて回る、というスタイルで物語りは進んでいきます。


最初に会った祖父とラバウルで一緒だったという男は、祖父を、戦闘中、戦場を離れて高みの見物を決め込む「臆病者」だったと言います。

次に会ったのは祖父と共に真珠湾攻撃に参加した男です。

彼もまた祖父のことを、戦闘機の飛行技術に関しては一流であったが臆病であったと言います。


ラバウルで祖父の部下として戦った男は、戦闘中に二度までも祖父に助けられます。

祖父は言いました。

「敵を墜とすより、敵に墜とされない方がずっと大事だ」

「たとえ敵機を打討ち漏らしても、生き残ることが出来れば、また敵機を撃墜する機会はある。しかし、一度でも墜とされれば、それでもうおしまいだ」


やがて祖父たちは、ラバウルからガダルカナルに出撃するようになります。

その距離約1000キロ。

時速300キロのゼロ戦が往復に要するのは約7時間。

その間ずっと敵を警戒し緊張し続けていなければなりません。

そして、いざ戦闘になると、ゼロ戦には装甲はほとんどなく、1発の被弾が命取りになります。

作中、戦後アメリカで会った戦闘機乗りは言います。

「俺たちが勝ったのはグラマンのお陰だ。俺たちは十回殴られて、ようやく1回殴り返すような戦いをしていたんだ。しかしその1発のパンチでゼロは火を噴いた」


ラバウルで飛行機の整備兵をしていた男も祖父が「臆病者」であったと認めます。

戦闘から帰ってきても、たいてい機体は無傷だったと。

また、しょっちゅう「エンジンに違和感がある」と言ってくるのだと。

しかし、祖父がそう言ってきた時には、かなりの確率で不良箇所が見つかるのでした。


やがて、劣勢となった日本は、狂気の神風特攻隊の時代へと突入していきます。

そして、祖父の隊でも特攻隊が作られることとなります。

全搭乗員が集められ、「志願する者は前へ出ろ!」と言われるのです。

全員が一歩前に出る中、一人だけその場を動かない者がいました。

祖父です。

なんという勇気でしょう!

「俺は絶対に特攻に志願しない。妻に生きて帰ると約束したからだ。どんな過酷な戦闘でも、生き残る確率がわずかでもあれば、必死で戦える。しかし必ず死ぬと決まった作戦は絶対に嫌だ」


ですが、そんな祖父は、結局終戦のわずか数日前に、特攻で命を落とすのです。

いったいなぜ……。


涙なしには読めない名作です。

エンジンの整備不良、米兵の妻の写真などの細かいエピソードが、後になって効いてきます。

あの戦争を知らない全ての人に、ぜひ読んでいただきたい作品です。



評価 ☆☆☆☆☆



百田尚樹の本は ここ