著作物ダウンロードでみんな犯罪者に? 法改正案に異論噴出  | Ao gasto muito bem puro em....         秋篠宮 佳子

ツイッターに多数投稿されている、有名漫画のコマを加工したコラージュ。こうした画像を集めるのも違法となる?(一部画像処理)

ツイッターに多数投稿されている、有名漫画のコマを加工したコラージュ。こうした画像を集めるのも違法となる?(一部画像処理)

 

インターネット上の著作物を、著作権者の了解を得ない海賊版と知りながらダウンロードする行為を全面的に違法とする著作権法の改正案が今国会に提出される。従来は音楽と映像だけだったが、静止画など全ての著作物に拡大。コピー&ペースト(コピペ)した歌詞や、画像のスクリーンショット(スクショ)を保管する行為も違法となる。ネット利用が萎縮するという指摘のほか、捜査当局の「犯罪捜査の口実に使われかねない」といった懸念の声が広がる。

 

◆漫画も、歌詞も、小説も、ゲームソフトも

 

 今回の法改正の背景には、漫画や映像の海賊版サイトに誘導する「リーチサイト」によって、「著作権者側に深刻な被害が生じている」と出版社などが訴えたことがある。これを受けて昨年、政府はリーチサイトへの一般ユーザーの接続を遮断する「ブロッキング」を打ち出したが、「憲法違反では」といった異論が噴出した。

 こうした中、法改正に向け急ピッチで議論が進められた結果、今月十三日の文化審議会の著作権分科会で、リーチサイト運営に規制を加えるとともに、違法ダウンロードの対象を漫画や写真、歌詞、小説、論文、ゲームソフトなど静止画を含む全ての著作物に拡大する方針が了承された。

 文化庁著作権課の大野雅史課長補佐は「海賊版の沈静化のためにできることを全て行うというのが政府の方針だ。ダウンロードも広く罰することで、ネットの利用者も違法なものの拡散に加担しないようにする。この改正は抑止力になる」と意義を強調する。

 改正法が成立すると、海賊版の漫画やゲームをパソコンやスマートフォンに丸々ダウンロードするのはもちろん、メモ代わりにネットやスマホ画面を写真で撮ったスクショに、海賊版の著作物が写っていたり、許可なくツイッターなどで紹介された歌詞などをコピペで取り込んだりしても違法となる可能性がある。

ダウンロードが罪に問われるのは、権利者が被害を訴え出た場合(親告罪)に限られるとはいえ、刑事罰は「二年以下の懲役か二百万円以下の罰金またはその両方」と重い。このため改正にあたり、著作権分科会の小委員会は「海賊版対策に必要な範囲で、刑事罰による抑止を行う必要性が高い悪質な行為に限定する」という意見を付けた。

 スクショなどは誰でも日常的に行っているが、どんな場合に罰則が適用されるのか。

 大野氏は「違法な海賊版と知りながら繰り返しスクリーンショットするのは対象になる」と説明する。その一方で、「明らかに違法な著作物が写れば別だが、よく分からないグレーな物は対象にならず、一般ユーザーに影響が及ぶものではない」と語るが…。

 

◆海賊版対策のはずなのに…

 

本当に一般ユーザーが心配する必要はないのか。

 著作権法に詳しい福井健策弁護士は、これまでの文化審議会での議論について、「本来は海賊版対策のはずが、違法とする対象を全著作物に広げようとしたため懸念が広がっている」と説明する。例えば、漫画一コマの画像のスクショでも「罰則の対象になるかどうかはあいまい」と指摘。「海賊版対策は重要。罰則は、海賊版と承知の上でダウンロードする明確な行為に絞るべきだ」と指摘する。

 海賊版ダウンロードの対象拡大を巡っては、文化庁が一月六日までに募ったパブリックコメントで五百三十四件の意見が寄せられた。出版社からは「対象範囲を出版物まで拡大することを強く求める」と期待する声があった一方で、「コラージュや引用での使用を目的としたダウンロードが刑事罰の対象になる弊害がある」など、疑問視する意見も多かった。

 一般社団法人インターネットユーザー協会は、ホームページで反対意見を公表した。文化審議会での議論をネットユーザーを保護する視点が足りないとし、「一番の問題は金銭的な利益のため、明確な悪意のもとに侵害コンテンツをアップロードしている人たち。その点の議論がすっぽりと抜けている」と問題視する。

 

◆創作者の側も「行き過ぎだ」

著作権法改正を巡って開かれた集会で発言する日本マンガ学会の竹宮恵子会長=8日、国会で 法改正で権利が守られるはずの創作者の側からも、異論が噴出している。

 日本マンガ学会の竹宮恵子会長は今月八日、参院議員会館で開かれた集会で、好きな漫画を基にファンが描いた「二次創作」のイラストなどのダウンロードも規制することで、そうした活動が萎縮する恐れがあると懸念を表明。漫画家の赤松健さんも「ネット上の著作物を集めて創作の参考にしている。すべての著作物を違法対象とするのは行き過ぎだ」と述べた。

 刑事罰が適用される違法ダウンロードは「反復や継続といった悪質な行為に限る」という方向で法文案が検討されているが、懸念はぬぐえない。

 著作権を巡る問題に詳しい山口貴士弁護士は、違法とされる対象が静止画や小説などに拡大されることで、「罰則のあるなしにかかわらず、創作行為の大前提となる資料収集行為を萎縮させてしまう」と反対する。

 ビジネスのプレゼンテーションの準備や研究活動などでネット上から気に入った画像や文章をメモ代わりに収集、保存することは、多くの人が日常的に行っていると指摘。「こうした資料の収集が萎縮すれば、経済活動や研究活動などにも影響が大きい」とみる。

 会員制交流サイト(SNS)などで発信されている、雑誌や新聞記事の抜粋をダウンロードする行為も違法とされる可能性があり、「ネットユーザーの多くが潜在的に犯罪者になってしまい、捜査当局がその気になれば摘発できることになる」と危惧する。

 知的財産法の研究者や弁護士ら八十を超える識者や団体は十九日、「刑事罰については、その萎縮効果の大きさに鑑みてさらなる限定を行うことが不可欠」と緊急声明を出した。

 この声明に参加し、著作権分科会の小委員会メンバーを務めた神戸大大学院の前田健准教授(知的財産法)は「現状のまま法改正されれば、違法化の対象が広すぎる。国民が日常的に行う行為まで違法となりかねない。海賊版とは無関係な部分で、広く規制が及んでしまう恐れがある。慎重に議論するべきだ」と話している。