第13話 2
今日はピアノのお稽古があるから、朝からなんとなくゆううつ。
弟の信一はウルトラマンの怪獣の人形なんかであそんでる。
いいなあ、なんで,男の子は習い事しないですむのかしら。
私はピアニストなんかより、博物学者にあこがれている。
ダーウィンみたいな発見をして、世界をあっと驚かせるの。
「のりちゃん、これ,もう捨てていいかしら?」
あれあれ?ママが何か持ってきた。
「食器棚を整理してるんだけど、こんな古いの、もういらないわよね。」
あれえ、それ、私が幼稚園のとき使っていた、お気に入りのお皿だ。
イチゴの絵がかいてあって、ママがよく、「さあ、のりちゃん、ぜんぶ食べたら、デザートのイチゴが出てくるわよ」って
なつかしいなぁ。 でも、もうさすがに使わないわね。 でも,捨てるにはもったいないし。
あっ、そうだ!!
私って今日、すごくさえてる。(笑)
「ママー、それ、ちょうだい。」
「えっ?どうするの。」
「いいから、いいから。じゃあ、いってきまーす。」
「のりちゃん、ピアノのお稽古,まだ早いんじゃあない?」
「ちょっと寄るところがあるの」
私はピアノの楽譜が入っている手提げ袋の中にそのイチゴのお皿を入れた。
そのことを考えるだけで、わくわくしてきた。
家を出て、少し歩くと、亀が丘団地に行く坂道がある。
ピアノの先生のうちは亀が丘団地の真ん中くらいにあるから、この道はよく知っているんだ。
亀が丘団地は山を切り崩して作ったから、あちこちに山肌が出ていて,地層が良く分かるの。
あそこをシャベルでていねいに掘ったら、何か出てくるかしら?
アンモナイトの化石が出てくればいいのになあ。
さあ、やっと半分まで来たわ。
でも,目的地は頂上だから、もうちょっとね。
ああ、本当に楽しみ。
あれ? あの遠くに見える自転車に乗っている男の子たち、もしかしたら。
あっ、でも、どうでもいいわよね。
「あら、のり子さん。」
「あっ,山内先生。」この人がピアノの先生。そして、ここがそのお家。ちょうど出てきて、ばったり会っちゃった。
「私、間違えたかしら。たしか、のり子さんは。」
「先生は合ってます。私、ちょっと用事があるので,そこに寄ってからまた来ます。
「へぇー。」
ああ,おかしい。先生ったら,何で?って顔してた。
そろそろ,見えてくる頃ね。
あっ,あの家。もう,あんなに建っちゃっている。
早いなあ。もう、あれじゃあ、2階に忍び込めないわね。うふふ。
さあ,着いた。
あっ、これ、さっきの自転車。
「こんにちは。」
「はあーい。」どたどたという音の後、玄関が開いて、小柄な女性が出てきた。この人、ツチモチ君のお母さん。
「あらー。」ツチモチ君のお母さんは満面の笑みを浮かべた。
「あきらー、お客さんよ。」ちょっと待っててねとツチモチ君のお母さんは言った。
待ってたら,庭の方からツチモチ君が来た。
やせっぽちで、髪の毛はいつも寝癖で立ってる。
私はツチモチ君にこんにちはと言った。
ツチモチ君は恥ずかしそうにぴょこんと頭を下げた。
「チビちゃん、どうしてる?」
「いるよ。」
私はおかしくなった。なんで、「いるよ」なんだろ?
いるに決まってるじゃない!(笑)
「見せて。」
「いいよ。」
庭の方に行くと、ツチモチ君のお父さんと、二人の男の子がしゃがんで、犬小屋を覗き込んでいた。
「あっ、やっぱりね。」私が大きな声を出したら、男の子が振り返った。
「あっ、早乙女だ。」
「何しにきたんだよ。」
やっぱり、オギハラ君とネモト君だった、
でも、この人たちって,本当にバカみたい。
自分たちだって,チビちゃんを見に来ただけじゃあない?
「やあ、おじょうさん。いらっしゃい。」ツチモチ君のお父さんが立ち上がった。手に小皿を持って、何かぽりぽりかじっている。
「ほら、みてごらん。新築の家だよ。」
そこには真新しい犬小屋があって、その中にちびちゃんがいて、なんかガジガジかじってる。
ちょっと、太ったのかなあ。
「ちょっと、太ったみたい。」私は思った通りのことを言った。
何故か、みんな笑った。
「これ、作ったんですか?」私は犬小屋を指差した。
「ぼくとお父さんが作ったんだ。」ツチモチ君が恥ずかしそうに言った。
ふーん、私は犬小屋を注意深く見渡した。ところどころ、釘が曲がっているところがあった。
きっと、ツチモチ君が打ったんだと思ったが、だまっていた。
「のりちゃん、お母さんお元気?」ツチモチ君のお母さんが縁側から出てきた。
「はあ、元気です。一応。」
ツチモチ君のお母さんとうちのママはPTAの役員を一緒にしているらしくて、かなり、気が合うらしい。
どっちも東京から転校してきたから、田舎の学校は遅れてるわねって盛り上がってるらしい。
でも、私は小坪小学校が好き。サンペイ先生はやさしいし、海にも遊びに行けるし、クラスのみんなも好き。
男の子はみんなにたよりなくて、バカみたいだけど、まあ、かわいいとこもあるし。
私はチビちゃんの耳をつまんで、指に巻き付けてみた。ビロードのような肌触りで、あったかい。
血管が透けて見えて,どくどく言ってるみたい。
「あっ、そうだ。」私は急にここに来た理由を思い出した。
そして、手提げ袋からイチゴのお皿を取り出した。
「あのう、これ、もし良かったら使っていただけないかなと思って。」
古い、イチゴのお皿に,ここにいる人の視線がぜんぶ集まった。
全員,不思議そうな顔をした。
「チビちゃんのお皿にちょうど良いかなと思って。」
「あー。」全員がうなづいた。
「なんだよ、そのイチゴの柄の皿。」オギハラ君が笑った。
「女もんじゃねえかよ。」ネモト君がさけんだ。
「でも,大きさはちょうどいいかもしれない。」ツチモチ君が言った。
「じゃあ、せっかくだから、いただきましょう。お母さんによろしくおっしゃってね。」
ツチモチ君のお母さんが言った。
「はあ。」べつにママに持たされたんじゃあないんだけどな。
ツチモチ君のお母さんが牛乳のビンを持ってきた。
あれ、この間、うらの建設中の2階にもってきたやつだ。ふふ。
お皿にいっぱい牛乳を入れて、チビちゃんの前に置いたら、
うあー、すごいいきおいで飲んでる。
「おっ、これおもしれえぞ。牛乳でイチゴが見えないぞ。」
「全部、のんだらイチゴが出てくるんだ。」
かわいそうな、おバカさんたち。やっと気がついたのね。
それで,大人と子供がずっとチビちゃんが飲み終わるまでながめていた。
「おっ,出てくるぞ。」お皿にイチゴの赤い色が見えた。
チビちゃんはもうれつにぴちゃぴちゃなめて、ほとんどお皿に牛乳がなくなった。
そしたら。みんな期待を込めてチビちゃんをながめた。
あっ、やっぱり!! チビちゃんはイチゴの柄を何回も何回もなめてる。
みんな、手を叩いて大笑いした。
チビちゃんはなんで笑われたのかわからないって顔をした。
あー、おもしろかった。
ツチモチ君はありがとうと言った。
チビちゃんもお皿気に入ったみたい。
「じゃあ,私。これからピアノのお稽古があるので。」私があいさつすると
ツチモチ君のお母さんがちょっと待ってと言って、紙袋を持ってきた。
「これ、お母さんにわたして。」中を見たら,チェックのふきんだった。
ママじゃないのになあ、と思いながらも、ちょっとうれしくなった。
「そんなお気遣いなさらないでください。でも,ありがとうございます。」私は思い切りていねいにお礼を言った。
ツチモチ君のお母さんは声を上げて笑った。
「おれたちもそろそろ帰るよ」オギハラ君たちが自転車の方に向かった。
さて,私もピアノに行くとするか。なんか、今日は上手に弾けそうな気がする。
つづく
今日はピアノのお稽古があるから、朝からなんとなくゆううつ。
弟の信一はウルトラマンの怪獣の人形なんかであそんでる。
いいなあ、なんで,男の子は習い事しないですむのかしら。
私はピアニストなんかより、博物学者にあこがれている。
ダーウィンみたいな発見をして、世界をあっと驚かせるの。
「のりちゃん、これ,もう捨てていいかしら?」
あれあれ?ママが何か持ってきた。
「食器棚を整理してるんだけど、こんな古いの、もういらないわよね。」
あれえ、それ、私が幼稚園のとき使っていた、お気に入りのお皿だ。
イチゴの絵がかいてあって、ママがよく、「さあ、のりちゃん、ぜんぶ食べたら、デザートのイチゴが出てくるわよ」って
なつかしいなぁ。 でも、もうさすがに使わないわね。 でも,捨てるにはもったいないし。
あっ、そうだ!!
私って今日、すごくさえてる。(笑)
「ママー、それ、ちょうだい。」
「えっ?どうするの。」
「いいから、いいから。じゃあ、いってきまーす。」
「のりちゃん、ピアノのお稽古,まだ早いんじゃあない?」
「ちょっと寄るところがあるの」
私はピアノの楽譜が入っている手提げ袋の中にそのイチゴのお皿を入れた。
そのことを考えるだけで、わくわくしてきた。
家を出て、少し歩くと、亀が丘団地に行く坂道がある。
ピアノの先生のうちは亀が丘団地の真ん中くらいにあるから、この道はよく知っているんだ。
亀が丘団地は山を切り崩して作ったから、あちこちに山肌が出ていて,地層が良く分かるの。
あそこをシャベルでていねいに掘ったら、何か出てくるかしら?
アンモナイトの化石が出てくればいいのになあ。
さあ、やっと半分まで来たわ。
でも,目的地は頂上だから、もうちょっとね。
ああ、本当に楽しみ。
あれ? あの遠くに見える自転車に乗っている男の子たち、もしかしたら。
あっ、でも、どうでもいいわよね。
「あら、のり子さん。」
「あっ,山内先生。」この人がピアノの先生。そして、ここがそのお家。ちょうど出てきて、ばったり会っちゃった。
「私、間違えたかしら。たしか、のり子さんは。」
「先生は合ってます。私、ちょっと用事があるので,そこに寄ってからまた来ます。
「へぇー。」
ああ,おかしい。先生ったら,何で?って顔してた。
そろそろ,見えてくる頃ね。
あっ,あの家。もう,あんなに建っちゃっている。
早いなあ。もう、あれじゃあ、2階に忍び込めないわね。うふふ。
さあ,着いた。
あっ、これ、さっきの自転車。
「こんにちは。」
「はあーい。」どたどたという音の後、玄関が開いて、小柄な女性が出てきた。この人、ツチモチ君のお母さん。
「あらー。」ツチモチ君のお母さんは満面の笑みを浮かべた。
「あきらー、お客さんよ。」ちょっと待っててねとツチモチ君のお母さんは言った。
待ってたら,庭の方からツチモチ君が来た。
やせっぽちで、髪の毛はいつも寝癖で立ってる。
私はツチモチ君にこんにちはと言った。
ツチモチ君は恥ずかしそうにぴょこんと頭を下げた。
「チビちゃん、どうしてる?」
「いるよ。」
私はおかしくなった。なんで、「いるよ」なんだろ?
いるに決まってるじゃない!(笑)
「見せて。」
「いいよ。」
庭の方に行くと、ツチモチ君のお父さんと、二人の男の子がしゃがんで、犬小屋を覗き込んでいた。
「あっ、やっぱりね。」私が大きな声を出したら、男の子が振り返った。
「あっ、早乙女だ。」
「何しにきたんだよ。」
やっぱり、オギハラ君とネモト君だった、
でも、この人たちって,本当にバカみたい。
自分たちだって,チビちゃんを見に来ただけじゃあない?
「やあ、おじょうさん。いらっしゃい。」ツチモチ君のお父さんが立ち上がった。手に小皿を持って、何かぽりぽりかじっている。
「ほら、みてごらん。新築の家だよ。」
そこには真新しい犬小屋があって、その中にちびちゃんがいて、なんかガジガジかじってる。
ちょっと、太ったのかなあ。
「ちょっと、太ったみたい。」私は思った通りのことを言った。
何故か、みんな笑った。
「これ、作ったんですか?」私は犬小屋を指差した。
「ぼくとお父さんが作ったんだ。」ツチモチ君が恥ずかしそうに言った。
ふーん、私は犬小屋を注意深く見渡した。ところどころ、釘が曲がっているところがあった。
きっと、ツチモチ君が打ったんだと思ったが、だまっていた。
「のりちゃん、お母さんお元気?」ツチモチ君のお母さんが縁側から出てきた。
「はあ、元気です。一応。」
ツチモチ君のお母さんとうちのママはPTAの役員を一緒にしているらしくて、かなり、気が合うらしい。
どっちも東京から転校してきたから、田舎の学校は遅れてるわねって盛り上がってるらしい。
でも、私は小坪小学校が好き。サンペイ先生はやさしいし、海にも遊びに行けるし、クラスのみんなも好き。
男の子はみんなにたよりなくて、バカみたいだけど、まあ、かわいいとこもあるし。
私はチビちゃんの耳をつまんで、指に巻き付けてみた。ビロードのような肌触りで、あったかい。
血管が透けて見えて,どくどく言ってるみたい。
「あっ、そうだ。」私は急にここに来た理由を思い出した。
そして、手提げ袋からイチゴのお皿を取り出した。
「あのう、これ、もし良かったら使っていただけないかなと思って。」
古い、イチゴのお皿に,ここにいる人の視線がぜんぶ集まった。
全員,不思議そうな顔をした。
「チビちゃんのお皿にちょうど良いかなと思って。」
「あー。」全員がうなづいた。
「なんだよ、そのイチゴの柄の皿。」オギハラ君が笑った。
「女もんじゃねえかよ。」ネモト君がさけんだ。
「でも,大きさはちょうどいいかもしれない。」ツチモチ君が言った。
「じゃあ、せっかくだから、いただきましょう。お母さんによろしくおっしゃってね。」
ツチモチ君のお母さんが言った。
「はあ。」べつにママに持たされたんじゃあないんだけどな。
ツチモチ君のお母さんが牛乳のビンを持ってきた。
あれ、この間、うらの建設中の2階にもってきたやつだ。ふふ。
お皿にいっぱい牛乳を入れて、チビちゃんの前に置いたら、
うあー、すごいいきおいで飲んでる。
「おっ、これおもしれえぞ。牛乳でイチゴが見えないぞ。」
「全部、のんだらイチゴが出てくるんだ。」
かわいそうな、おバカさんたち。やっと気がついたのね。
それで,大人と子供がずっとチビちゃんが飲み終わるまでながめていた。
「おっ,出てくるぞ。」お皿にイチゴの赤い色が見えた。
チビちゃんはもうれつにぴちゃぴちゃなめて、ほとんどお皿に牛乳がなくなった。
そしたら。みんな期待を込めてチビちゃんをながめた。
あっ、やっぱり!! チビちゃんはイチゴの柄を何回も何回もなめてる。
みんな、手を叩いて大笑いした。
チビちゃんはなんで笑われたのかわからないって顔をした。
あー、おもしろかった。
ツチモチ君はありがとうと言った。
チビちゃんもお皿気に入ったみたい。
「じゃあ,私。これからピアノのお稽古があるので。」私があいさつすると
ツチモチ君のお母さんがちょっと待ってと言って、紙袋を持ってきた。
「これ、お母さんにわたして。」中を見たら,チェックのふきんだった。
ママじゃないのになあ、と思いながらも、ちょっとうれしくなった。
「そんなお気遣いなさらないでください。でも,ありがとうございます。」私は思い切りていねいにお礼を言った。
ツチモチ君のお母さんは声を上げて笑った。
「おれたちもそろそろ帰るよ」オギハラ君たちが自転車の方に向かった。
さて,私もピアノに行くとするか。なんか、今日は上手に弾けそうな気がする。
つづく