午前中に彼女と約束をかわした私は、やおらベッドから起き出した。
いそいそと身支度を整えて、家を出る。
この日は私用が2、3件あったので、手短かにそれらを済ませると、約束していたカフェへ車を飛ばした。
13時ちょうどにカフェの駐車場に車を滑り込ませる。
車を降りると、まだ照りつける陽射しがまぶしかった。
まだまだ夏の名残が容赦なく降りそそぐ、土曜の午後。
カフェへとつづく、ゆるやかなスロープを上りつつ、私は汗をぬぐいながら店の前に着いた。
趣(おもむき)のある外観。
明治時代の洋館で、当時の日本陸軍の将校のために建てられた施設だった。
その建物をカフェに改装したものだという。
私はつかの間、店の前で呼吸をととのえた。
あわい期待を胸に店の中へ。
広々としたロビーを通り、スタッフに私の名前を告げる。
するとすぐに、予約してあったテーブルまで案内してくれた。
行ってみると、なんと彼女は先に来ていた。
女性を待たせるとは、ありえない。
ましてや初対面の方なのに。
焦る気持ちを抑えながら、私は彼女の向こう側に回り、お互いに立って自己紹介を交わした。
はじめて目を合わせる。
ナミという名の女性だった。
白のパンツに黒いブラウス。
強い光をやどした瞳。
キリッとした目が印象的だった。
私は時間に遅れたことを詫びながら、お互いに席へ着いた。
今までも私は、このサイトで何回か女性と会って、食事をしたことはあったが。
ここまできっちりした方とは、出会ったことが無かった。
世間話をしながら、彼女のリアクションをそれとなく推しはかってみる。
最初から共通点が多かった。
バイクが好きなことやカフェ好きなこと。
お菓子作りも2人の共通点だ。
ただ話は盛り上がるのだが、あまり色気のある方面の話にはなりそうもない。
品を欠くような話で、ナミさんと初めて会うこの雰囲気を壊したくはなかった。
ま、今日は楽しくお食事ができればいいかな、と私は気持ちを切り替えてスマートにお話をつづけた。
スタッフの方が注文を取りに来たので、私はホットサンドを頼み、彼女は白玉パフェをオーダー。
待つ間も2人はなおも話をつづける。
洋館の隣にある、芝生の上を吹き抜ける風が爽やかだった。
しばらくすると、お互いのメニューが運ばれてきた。
彼女の白玉パフェ。
和皿に盛り付けられたアンコと白玉。
抹茶アイスがこの店の雰囲気に合っていた。
食事をしながら話を続けていくうちに、彼女のおおよその輪郭がつかめてきた。
年齢は43歳。
3人の子供がいるという。
私も以前、家庭を持っていたこともあり、子育てや家庭の話をしながら会話をつづけた。
話をしてみたナミさんの印象は、見かけ通りの非常にサッパリとした性格だということ。
パパ活サイトで知り合った女性にしては、まったくもってスキが見当たらない。
占いが好きな私は、これまでさまざま女性の身の上話を聞くことには慣れていたのだが。
だんだんと、占いで人生相談に来た女性と話をするような気持ちになって来た。
でも、それでもよかった。
実際に会ってみて、人として非常に気持ちのいい方だった。
食事を終えた私たちは、いい気分で店を出た。
心地よかったので、場所を変えて話をつづけませんか?と彼女に持ちかけてみる。
すると、大丈夫ですよ、という返事だったので私の車に彼女を乗せて、カフェを後にした。